July 10, 2009

湊かなえの「告白」に続く第二作「少女」を読んだ。
高校生の桜井由紀と草野敦子が主人公。
幼なじみで、小さいころは一緒に剣道教室に通っていた。
そんな二人だが、由紀の書いた小説が盗作されたことをきっかけに、
次第に離れていく。
そんなとき転入生の紫織が現れ、3人は話をするようになる。
紫織が「死を目撃した」ことを語り、人の死に関心を持つ2人は、
「人が死ぬ瞬間を見たい」と、
夏休みにそれぞれ、病院と老人福祉施設でアルバイトを始める・・・。
二人の少女が交互に語る構成は、
どちらのことなのか、読んでいても分かりづらく、頭が混乱した。
それが狙いなのかとも思ったが、そうでもなさそうだし、
この点は大きな減点。
しかし何でもないエピソードの数々が
綿密に仕掛けられた伏線となっており、
最後にすべて収束するさまは実に見事。
全体の完成度では前作「告白」に及ばない。
★★★★
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July 07, 2009

中野京子の「怖い絵」「怖い絵2」を続けて読んだ。
“怖い”をテーマにした絵画エッセイ集で、
すこぶる評判がよく、
つい先日も第3巻が発行されたばかり。
西洋絵画は結構見ているつもりだったが、
専門的に学んだわけではないので、
本に紹介されている絵画で、知っていたのは
3分の1くらいだろうか。
名前さえしらない画家も数人いた。
しかしこの本を読むのに、
絵や画家を知っている、知らないは
それほど問題ではない。
最初のページで絵が紹介される。
じっくり見ても、どこが怖いの?と思う絵画もある。
ところが、時代背景や、当時の風俗、習慣などが語られるにつれ、
なるほど、怖く見えてくるのだ。
ある意味、謎解きが味わえる本ではないだろうか。
しかし中世ヨーロッパの王室の
権力争いや血縁に関するエピソードは、
どんな怪談よりも怖い。
Amazonによると、この著者の本は
「名画で読み解くハプスブルク家12の物語」「危険な世界史 」など、
どれも4つ星、5つ星と、大変評価が高い。
ぜひ読んでみようと思う。
★★★★★
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July 04, 2009

牧薩次の「完全恋愛」を読んだ。
2009年の“このミス”第3位、第9回本格ミステリ大賞受賞作。
ちなみに「牧薩次」は、作家・辻真先の別名義で、
キャラクターとして本作品にも登場する。
画家・柳楽糺(なぎらただす)の生涯を書いた物語。
彼は疎開先で小仏朋音に出逢い、
一生、彼女を愛し続ける。
そしてその人生の中で三度、大きな事件と関わりを持つ。
駐留軍の将校刺殺事件、
朋音の娘・火菜の遠隔殺人事件、
朋音の夫の溺死事件・・・
前述のとおり一般的な評価は高いけど、実際に読んでみて、
ミステリーとしても、恋愛小説としても、
中途半端だと思う。
どの事件のトリックも、無理をしてると感じる。
まあ、ミステリーというのはそういうものと
割り切ってしまえば、楽しめるのかもしれない。
時期は違うが、同じように昭和の時代を描いた
「オリンピックの身代金/奥田英朗」を読んだばかりなので、
その情景描写にも薄っぺらさを感じた。
ただ最後の最後、
タイトル「完全恋愛」にふさわしいオチがついている。
これは予想外、鮮やかなラストだった。
そうか、完全恋愛を成し遂げたのは、この人だったんだ・・・納得。
★★★
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July 01, 2009

奥田英朗の「オリンピックの身代金」を読んだ。
昭和39年の東京が舞台。
アジア初のオリンピックを2カ月後に控えた8月、
その警備の最高責任者である須賀修二郎宅と警察学校の寮が
立て続けに爆破される。
やがて爆弾魔・草加次郎の名を語る犯人から脅迫状が届く。
オリンピックの中止を要求する内容であった。
警察はかん口令を敷き、爆発の事実も脅迫状も国民に伏せた。
国家の威信を掛けた東京オリンピック、
万が一のことで国際的な評価を落とすわけにはいかない。
主人公である東大の院生、島崎国男は、
兄が働いていたオリンピック会場の建設現場で
肉体労働をすることにした。
華やかなオリンピックの陰で、
多くの人が苦労を強いられていることに
次第に義憤を感じる。
オリンピック開催を阻止することに決めた国男は、
計画を練り、国や警察と対峙することになる・・・。
昭和の時代を舞台にした犯罪小説。
ノンフィクションであるにもかかわらず、
この事件、もしかしたら現実に起きていたのでは、
というリアリティを感じさせる筆力は見事。
犯人である東大院生、肉体労働の人夫、
警察庁の幹部、公安部や刑事部の警察官、
ヤクザ、そしてその他大勢の一般市民など、
さまざまな人物が登場し、
昭和という時代、戦後19年しかたっていないという時代の雰囲気、
変貌を遂げる都市・東京を見事に描いている。
2段組、500ページを超える厚みを
まったく感じさせない傑作。
これからも奥田英朗からは目が離せない。
★★★★★
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June 23, 2009

伊坂幸太郎の「モダンタイムス」を読んだ。
SE(システムエンジニア)の渡辺は、
ある日突然、殺し屋に襲われ
あやうく命を落としそうになる。
それから彼の周りでは、ひどい事件・事故に遭う人が相次ぐ。
どうやら、ある言葉の組み合わせをパソコンで検索すると、
被害に遭うことが分かってきた・・・
週刊モーニングで連載されたという変わり種の小説。
あとがきで
「全力疾走した短いお話を五十六個積み重ねたかのような」
との表現もあるくらい、
休む間もなく、話が展開していく。
タイトルの「モダンタイムス」は、
チャップリンの傑作映画から取っている。
システム化された近代社会の中では、
労働者は歯車になってしまうという風刺映画。
この小説には、何度もシステムという言葉が登場。
検索した人をひどい目に遭わせていたのは、
悪人や組織ではなく
"資本主義国家"のシステムであったというのは、
まさに、チャップリンの世界と重なる。
殺し屋、岡本猛や作家、井坂好太郎など、
いつものように個性的な人物がずらりと登場する。
なかでも奥さんの佳代子は、
歴代、伊坂ワールドでも最高、そしてたぶん最強。
こういう女性にしびれるワタシはM嗜好あり?
そして、最後にわかる超能力がアレとは(笑)
このあたりのセンスは、この作家らしい。
★★★★☆
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June 18, 2009

山崎ナオコーラの「男と点と線」を読んだ。
世界各地を舞台にした男と女の物語が、
軽いタッチで描かれている短編集。
特別にぐっとくるような感動作はないし、
どこにでもありそうな、いわば、とりとめもない話ばかり。
6つの短編は関連性がなく、
ひとつひとつが淡々と終わっていく。
特にファンタジーっぽく描かれた「邂逅」と、
高校生のデートを中心とした「膨張する話」は、
私には相性が合わなかったようだ。
ほかの作品にも、アンバランスで不思議な感覚の文節があるが、
私には稚拙としか読み取れなかった。
芥川賞候補作の「カツラ美容室別室」を読んだときの感想が、
「特に感じるものはなかった」
今回もまったく同じ。
当分、この作家の作品を手に取ることはないと思う。
★★
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June 09, 2009

北重人の「汐のなごり」を読んだ。
第140回直木賞候補作。
江戸時代、庄内藩あたりの水潟という湊町を舞台に、
慎ましく暮らす人々を描いた
短編小説6作品が収められている。
いずれの主人公も中年から老年で、
人生の晩年を迎えようとしている人たち。
おのれの人生を振り返ったときに浮かんでくる想いを
独特な雰囲気をもって描いている。
どれも印象深い作品ばかりだが、特に「海羽山」。
幼いころに飢饉で津軽から逃れる途中、
生き別れになった兄弟が50年後に再会を果たす。
弟は兄から、父と母の驚くべき最期を聞く。
また「海上神火」は、
ずっと男を待ち続けている元遊女の物語。
その恋が、波瀾万丈の末、ようやく叶おうとしている。
エンディングの美しさ・・・
うまい、と、思わず唸ってしまった。
米相場を扱った「合百の藤次」だけは、
どうしても興味を持てなかったので、
少々減点。
★★★★
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June 06, 2009

葉室麟の「いのちなりけり」を読んだ。
第140回直木賞候補作。
小城藩の重臣・天源寺刑部の婿となった雨宮蔵人は、
初夜に新妻の咲弥から言い渡された。
「これぞとお思いの和歌を思い出されるまで
寝所はともにいたしますまい」
そんな咲弥であったが、蔵人は静かに思い続ける。
蔵人は江戸屋敷に勤務するようになり、
次期藩主の元武から、
お国に帰るときに舅の刑部を討てとの命令を受ける。
命令を遂行し脱藩して、流れ着いた京で警護役に就く。
警護の合間には書を読み、好きな和歌を探した。
咲弥との約束を果たすために。
咲弥も思わぬ展開を経て、
水戸・徳川光圀の小石川の屋敷に奥女中として仕える。
月日は流れ、光圀と将軍綱吉の対立の中で、
数奇な運命により引き裂かれた二人が再びめぐり合う・・・
一途な二人の忍ぶ恋に心を揺さぶられた。
読み応えのある大人の恋愛小説。
歴史小説が好きであれば読むべし。
この美しいタイトルは、古今和歌集の
「春ごとに 花のさかりは ありなめど
あひ見むことは いのちなりけり」
から採られ、
文中でも引用されている。
★★★★★
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May 27, 2009

川上弘美の「どこから行っても遠い町」を読んだ。
舞台は都内のどこかにある小さな商店街。
魚屋、鳥肉屋、八百屋、料理店などに出入りする人たちが
11の短編の主人公。
1話ごとに語り手が代わり、それぞれ完結はしているが、
登場人物は少しずつ重なる連作短編集。
平凡な日常が淡々と描かれている。
登場する人物は日常の中で周りの多くの人と関係し、
ときに支えあって生きている。
そして、派手ではないけれど、
それぞれの人生に物語がある。
作品を締めくくる第11話は「ゆるく巻くかたつむりの殻」。
20年以上前に亡くなった魚屋の女房が語り手となり、
彼女の回想と今を生きる人たちの物語がつらなる。
ハッピーエンドでもないし、
何かが解決したわけでもないけれど、
美しい結びにため息が出た。
評価:★★★★★
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May 19, 2009

三羽省吾の「タチコギ」を読んだ。
主人公の柿崎信郎は祖母の葬儀のため、
小学4年生の智郎を連れて
30年ぶりに故郷を訪れることになった。
智郎不登校になっており、信郎の悩みの種であった。
柿崎は小学生のころ「ノブ」と呼ばれ、
ウネリン、チクワ、タカオミ、ガボちゃん、ジャガ夫らの悪友と
毎日悪戯したり、野球をしたりと忙しい日々を送っていた。
しかしこの時期、故郷の鉱山は、
ストや外資系企業の買収などで大きく揺れていた・・・
柿崎信郎ことノブの少年時代と、
父親になった現在が交互に描かれる。
この小説の世界って重松清と似ている。
少し荒削りだけど、しんみりさせる場面もあって
まずまずといったところか。
最後の父親と男の子の会話の場面は
男の子の気持ちもよく分かって、
ハッピーエンドというわけではないが、
なかなか味わい深い終わり方になっている。
評価:★★★☆
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May 11, 2009

初野晴の「退出ゲーム」を読んだ。
退屈だった。
薄い短編小説集だったので無理して読了した。
いわゆる青春ミステリーとか学園ミステリーとか呼ばれる
ジャンルに属する作品で、
ネットで検索すると、それなりに高い評価を得ている。
しかし私は相性が良くなかったということで・・・
詳細は省略。
評価:★
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May 06, 2009




子どもの日の5月5日、
岐阜市にある絵本の店「おおきな木」の
15周年記念イベントに参加してきた。
午前中は第一部として、
絵本作家の高畠純さんと長谷川義史さんの指導で、
それぞれ「おもしろがさをつくろう」
「けしょうまわしをつくろう」という
2つのワークショップ。
親子が対象なので、私は見ているだけ。
化粧回しは、最後に土俵入りもして
子どもたちはとてもうれしそう。
午後からは第二部として、
店長の杉山三四郎さんによる
「さんしろう絵本ライブ」。
午前中のお二人に加え、
内田麟太郎さんもゲストで登場するという豪華版。
絵本ライブというのは、
大きなスクリーンに映し出した絵本を見ながら、
さんしろうさんがギターの弾き語りをするというもの。
店長ならしろうとじゃん、なんて侮ってはいけない。
CDを2枚出しているプロなのである。
この日はバックにキーボード、ベース、パーカッションの3人を従え、
ハーモニカを吹きながら、ギターも弾き、歌も歌う、
さらには司会進行役もと、八面六臂の活躍。
ゲストは絵本の読み聞かせだけではなく、
歌や楽器の演奏にも参加。
3人がお父さん、お母さん、子ども役でセリフを語り、
さんしろうさんが歌を歌った「ワニぼうのこいのぼり」は
胸にじんと来た。
長谷川さんはウクレレ片手に
リードヴォーカルで2曲を歌い上げた。
「ようちえんのブルース」と「じゃがいもポテトくん」
最高です!
長谷川さんは、ライブ紙芝居という、
その場で模造紙に絵を描きながら、
物語を作っていくパフォーマンスも披露した。
この作家、実はこの日初めて知った。
帰りに2冊を購入してわが家の本棚に並べた。
もちろんサイン入りで。

絵本のお店、夢のある仕事だけど、
現実は厳しいだろうな、きっと。
本離れが言われて久しいが、
これから20年、30年先も、
岐阜の子どもたちに夢を与えてくれていることを祈りたい。
●おおきな木15周年記念スペシャルイベント
'09.5.5 岐阜県民ホール未来会館
《第1部 アートであそぼう!》
A. 高畠純さんと「おもしろがさをつくろう」
B. 長谷川義史さんと「けしょうまわしをつくろう」
《第2部 さんしろう絵本ライブ》
ゲスト 内田麟太郎 高畠純 長谷川義史
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May 01, 2009

桜庭一樹の「ファミリーポートレイト」を読んだ。
作品は二部構成で、第一部は『旅』。
主人公はマコとその娘のコマコで、
2人の逃避行と破滅的な日々を描いている。
母のマコから虐待を受けながらも、
なおもマコを愛し、どこまでもついていく、けなげなコマコ。
第二部は『セルフポートレイト』。
17歳となったコマコ、
自堕落な生活を送るうちに男を知り、女を知る。
やがて、子どもの頃からずっと続けていた読書が
コマコを救うことになる・・・
いつものことながら、
この作家の話の展開には圧倒される。
特に第一部。
「葬式婚礼」という
本当にあるのか無いのか分からない怪しげな風習の場面など、
エログロそのもので吐き気を催すほど。
その後も、現実離れした毒のあるおとぎ話が続く。
第二部は、コマコのサクセスストーリー。
十代で廃人同然となっていたコマコだったが、
書くことで少しずつ生きる力をつけ、
ついには独り立ちする。
文学界の描き方も生々しい。
文学賞の発表を待つ間の緊張感や、
授賞式での様子などは、
自叙伝的に書かれているのではないか。
評価:★★★★★
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April 27, 2009

小川洋子の「猫を抱いて象と泳ぐ」を読んだ。
チェスを愛した寡黙な少年の物語。
彼は口が閉じたまま産まれた。
切開手術を受けた際に脛から皮膚移植をしたため、
唇から毛が生えている。
祖父母や弟と質素な生活をしていたが、
ある日、廃バスに住む大男の“マスター”から
チェスの手ほどきを受けることになった。
めきめきと力と付けていく少年のプレイスタイルはユニーク。
チェステーブルの下にもぐり、
駒の音を聞きながら熟考するというもの。
ひょんなことから、秘密クラブの自動チェス人形
“リトル・アリョーヒン”の中に入ることになり、
誰にも姿を見せることなく、次々と美しい棋譜を残していく・・・
大きくなりすぎて、デパートの屋上で
一生を過ごすことになった象のインディラ、
壁の隙間にはまって出られなくなった少女ミイラ、
太りすぎたため住んでいた廃バスから
出られないまま亡くなったチェスの師匠“マスター”、
不思議な人物が登場し、不思議な出来事が起きる。
そしてそれぞれが優しさに満ちている。
対戦の場面は比喩をうまく用いており、
チェスに関する知識がそれほどない私でも、
状況は十分に理解できた。
静けさに包まれたラストも感動的で、
心を揺さぶられた。
ただし、唇から脛毛が生えるという表現は、
生理的に嫌悪感があり、
最後まで受け入れることができなかった。
これがなければ満点なんだけど・・・
女性の読者はどう感じるんだろう。
評価:★★★★☆
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April 18, 2009

恩田陸の「きのうの世界」を読んだ。
第140回直木賞のノミネート作品。
突然失踪した市川は、M町の中州の丘にある小屋に住みつく。
M町には、黒い塔が3本あり、1本は壊れたまま。
また、雨の強さによって流れの変わる不思議な水路が設けられていた。
市川は地質調査と称し、
町内の人々に色々なことを聞いて回っていたが、
ある日、水無月橋で殺害されてしまう・・・
壮大なスケールで描かれた約500ページの長編。
最初から引きつけられ、
一気に読み続けるのだが、
最後は肩すかしをくわされるというのが
恩田陸作品のいつものパターン。
今回も同じ。
だったら読まなければいいのだが、
新刊が出るたびに、つい手に取ってしまう
不思議な魅力を持っている。
ちりばめられた謎のいくつかは、
解明されることなく、謎のまま残っている。
意図的なのだろうが、これが肩すかしと感じてしまう
一番の要因なのだと思う。
帯にあった「恩田陸の集大成!」は
誇大広告だね、どうみても。
評価:★★★
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April 13, 2009

久しぶりの重松清作品「とんび」を読んだ。
無骨だが皆に愛されているヤスさん。
幼い頃から両親を知らずに育った彼が
やっと得た家族、美しい妻と長男アキラ。
しかし3人の幸せな生活は短かった。
妻が事故に巻き込まれこの世を去る。
男手ひとつでアキラを育てるヤスさん・・・
わが子の幸せを願いながら子育てに悪戦苦闘する父親、
その喜びと哀しみを描く。
重松作品らしく、泣かせる場面が何度も登場。
私自身、父親を早くに亡くしたため、
親子、特に父と子を描いた映画、小説にめっぽう弱い。
この作品でも、何度、目頭を熱くしたことか。
ヤスさんの周りの人たちがいい人ばかり。
みんなでアキラを育ててきたのは
いかにも昭和の時代らしい。
私の街でも「子どもたちは地域で守り、育てよう」という
子育てのスローガンを掲げている。
この作品はその言葉そのもの。
ぜひこうであってと願うのだが、
現実はもっと厳しいんだろうな。
評価:★★★★☆
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March 23, 2009
久しぶりに楽しいイベントに出会った。
それは「一箱古本市」
みかん箱1箱程度の古本を持ち寄って
フリーマーケット方式で売るイベントで、
名古屋での開催は初めて。
一箱古本市は、東京の「不忍ブックストリート」で始まり、
徐々に全国で広まりつつあるという。
今回の会場は名古屋市内の円頓寺商店街。
出店は30人ほどで、古本屋さんもいれば個人も。
でも圧倒的におもしろいのは個人。
出品できる本の数が限られているので、
テーマを決めている人が多い。
アート系とかインテリアとか映画とか。
ダイエットの本ばかりの人もいた。
ひと通り回ってみて感じたのは、
出店者は、いらない本を売ろうとしているのでなく、
自己主張してるんじゃないかって。
大げさに言えば、今までどうやって生きてきたのかが
箱の中の本から見えてくるような気がする。
もし出店するとしたら、
(というか、次回はぜひ出店したい)
どんな本を持って行こうか、
相当迷うだろうなって思う。
そうそう、必ず屋号を付けなければいけない。
これも迷いそう。
みなさん、とてもすてきな名前だったのも印象的だった。
以下の写真は、会場の様子。


この出店者はデザイン関係かな

年代物に見えるトランクに入れてディスプレイ

手作りのはんこ付きで古本を販売というのは面白い試み

適当に雑誌類を並べていた男性の出店者 それでも自己主張しているように見える

ここは名古屋大学現代小説&SF研究会出張所

ダイエットの本ばかりを出品 屋号は何だったっけ、ノルウェイ語?

映画特集の雑誌がたくさん並んでいたお店

屋号の看板が手作りでかわいい ちょっとした小物を売っている店も多かった

数は少ないが個性的な本が並んでいた 箱代わりに使っているのはキャリーバッグ
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February 14, 2009

池上永一の「テンペスト」上下巻を読んだ。
各400ページ以上、しかも2段組みという、
とんでもないボリュームだが、
読み始めたら止まらなかった。
十九世紀、琉球王朝の末期が舞台。
孫家に生まれた真鶴は、とてつもない才知の持ち主。
しかし女であるがゆえに、学問をすることができない。
王宮に入ることも不可能であった。
不満を抱いた彼女は、性別を偽り、
宦官(かんがん)・孫寧温として難関の科試を突破。
役人として琉球のために尽くそうとする。
しかし時代は大きく変わろうとしていた。
琉球が国家滅亡の危機を迎える中、
真鶴は波瀾万丈の人生を歩むことになる・・・
個性的な人物が次から次へと登場して、
本の帯にある、作家、有川浩の言葉
「ルール無用の大河ジェットコースター、
乗車中の高揚感にご注意願います」に、
これって大げさだろうと思いながらも、
うんうん、そうそうとうなずいてしまう。
兄の嗣勇に、寧温の良きライバル朝薫、薩摩藩士の雅博、
どこまでも堕ちていく真牛、
御内原で出世していく思戸、真鶴の親友の真美那・・・
だれもがいい味を出している。
ただ、清国の宦官・徐丁垓だけは、ちょっとどうかな?
気持ちが悪いというか、
女性ならこの表現はひいてしまうのでは。
今まで琉球の歴史、特に近代史については
まったく知識も関心もなかった。
国内は30代までに大方、訪ね歩いているが
沖縄は一度も訪れたこともない。
しかしこの小説を読んで、俄然、興味を持った。
この作品、本屋大賞にノミネートされているが、
本命「出星前夜」の対抗馬か。
評価:★★★★★
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February 11, 2009

多島斗志之の「黒百合」を読んだ。
昭和27年の夏休み、東京に住む14歳の進は,
父の友人が所有する六甲山の別荘に招かれる。
そこに住む一人っ子の一彦と2人で遊んでいるうちに
近くの立派な別荘に住む香と出会う。
同い年の3人はお互い引かれ合い、毎日会うようになる・・・
と、ストーリーだけを追っていくと、
少年少女の「思い出の夏」の物語。
しかし途中で、進と一彦の父親の青春時代や、
香の叔母、日登美の過去の話が挿入され、
2件の殺人事件が起きる。
犯人はいったいだれなのか、読者は最後の最後に知らされる。
これが実に巧妙なトリック、完全にだまされてしまった。
改めて読み返すと、西暦と昭和の元号を使い分けていたり、
細かい点でも、著者がうまく読者を誤導するように書かれている。
参った!本格ミステリーの面白さを堪能できる傑作。
評価:★★★★★
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January 28, 2009

絲山秋子の「ばかもの」を読んだ。
主人公は、毎日を気ままに過ごす大学生のヒデ。
年上の恋人額子に夢中になるのだが、
ある日突然、ひどい仕打ちを受けて振られてしまう。
何とか大学を卒業、就職はしたが、
ヒデの生活は次第に荒廃していく。
酒量が増え、泥酔、暴力ざた、無断欠勤を繰り返し、
仕事や恋人、友人を失い
とうとうアルコール依存症に。
一方の額子、ヒデと別れて結婚したものの、
不慮の事故で片腕を失ってしまう。
その後、離婚をして不自由な体で一人暮らし。
そんな二人が再び会うことに・・・。
第一章ではリアルな性描写が続く。
これってエロ小説? 嫌いではないけど。
二人が別れてからは突然シリアスな物語に。
ヒデの堕落ぶりは読んでいて気分が悪くなるほど。
それでも再会後は少し光が見えてくる。
そしてラスト、はっきりは書かれていないけど
これってやはり悲劇?
ヒデが額子に向かって「ばかもの」と叫んだ後どうなったのか。
想像どおりだとすると、こんな悲しい結末はない。
ところで、何度も登場した
ヒデにだけ見えるという「想像上の女性」は
いったい何者なんだろうか。
結局、最後まで明かされなかった。
このもやもやはどうしてくれる?
とはいえ、この作品の評価が下がるわけではないので。
評価:★★★★★
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January 26, 2009

山本兼一の「利休にたずねよ」を読んだ。
天童荒太の「悼む人」とともに、第140回直木賞を受賞。
無二の美意識を持つ千利休。
天下一の茶人といわれ、秀吉に仕えていたが、
最後はその秀吉から命ぜられて切腹した。
その生涯を追っていくと、
肌身離さず持っていた緑釉の小さな壺と、
それにまつわる女性との恋が浮かび上がってきた・・・
短い章で、視点を変えながら、
利休と彼を取り巻く人物や時代背景を克明に描写している。
ミステリータッチになっており、読み手を飽きさせない。
学生時代、日本史を習ったときに疑問に思った
利休が秀吉から切腹を命じられた背景も
これならよく理解できる。
“利休好み”といわれる美的センスだけでなく、
戦国武将の参謀としての能力も備えた
利休の天才ぶりは魅力的。
私も利休のような「目利き」でありたいと思った。
ところで、この本を読んでいる最中に、
直木賞受賞を知った。
今回の候補作には歴史小説が多く、
どれか1冊は受賞するだろうと思っていた。
この作品だったとは。
タイミングの良さがうれしかった。
評価:★★★★★
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January 20, 2009

中山可穂の「サイゴン・タンゴ・カフェ」を読んだ。
ブエノスアイレス、サイゴン、ハノイ、東京を舞台に、
さまざまに心揺れる女性を描いた短編集。
どれもアルゼンチン・タンゴをモチーフにしている。
表題作の「サイゴン・タンゴ・カフェ」は、
他よりも長めの中編。
週刊誌記者の孝子が、滞在中のハノイで、
ふらりと立ち寄った路地裏の「サイゴン・タンゴ・カフェ」。
カウンターの奥にたたずむオーナーの老女は日本人だった。
誘われるままに一緒に踊った情熱的なタンゴ。
この女性こそ上司が20年探し続けていた
伝説の作家だった・・・
中山可穂の作品を読んだのは、
衝撃の傑作「ケッヘル」以来。
漂ってくる濃厚な空気はこの作品も同じ。
危険で足を踏み入れてはいけないと分かっていながらも
そこへ堕ちていく女性たちを、
情熱的、官能的に描いている。
読んだ後も、妖しく激しいタンゴの調べが
頭の中で渦巻いているよう。
久しぶりにピアソラを聴いてみたくなった。
「ドブレAの悲しみ」だけは他の作品とイメージが異なる。
猫を語り部とした物語で心地よく読めた。
著者は相当の猫好きなんだろうな、きっと。
評価:★★★☆
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January 15, 2009

城山三郎の「そうか、もう君はいないのか」を読んだ。
著者の遺稿を編集したエッセイ。
妻の容子との結婚後から2000年2月24日に亡くなるまでの
日々が綴られている。
著者の没後、遺されたメモや原稿を
次女と出版社が再編集し出版にこぎつけたという。
タイトルがいい。
「そうか、もう君はいないのか」
見ただけで連れ合いへの想いが想像できる。
著者の落胆ぶりが目に浮かぶようだ。
そして一気読み、
夫婦の強い愛情に胸が熱くなった。
城山三郎の著書は昔、数冊読んだはず。
経済小説が多く、余り印象に残っていない。
この作品はイメージとは随分異なる。
人間味あふれる文章をじっくりと時間を掛けて味わった。
あとがきにしては長いが、
次女による後記も素晴らしい。
著者が書けなかったことを娘の立場で補完し、
夫婦の愛の軌跡がリアルに伝わってきた。
評価:★★★★☆
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January 11, 2009

本多孝好の「チェーン・ポイズン」を読んだ。
主人公は仕事に疲れた36歳の独身OL。
恋人もいないし、ましてや結婚のあてもない。
魅力に乏しい30代の女性に対して世間の風は冷たく、
ブログで救いを求めても、書かれたコメントは
「シネ」「消えなよ」「ウマレテキタノガ、マチガイデシタネ」・・・
絶望した女性は死を考えるようになる。
仕事をさぼってぶらぶらしているときに謎の人物から声を掛けられる。
「1年我慢すれば私が楽に死ねる手段を差し上げます。」
「きっかり1年後、私はまたここにきます。
もしそのとき、その気になったら、ここに来てください。
私が1年頑張ったご褒美を差し上げます。」と。
女性は死ぬことを生き甲斐にして、残りの1年を生きようと考える。
一方、耳の病気で絶望した天才ヴァイオリニストと、
凶悪犯罪の被害者の遺族の男性が毒物自殺した。
直前に2人を取材したのが週刊誌の記者、原田。
彼はこの偶然に疑問を抱き、
関係者に話を聞き始めた。
同時に、やはり毒物により自殺した高野章子というOLについても
その関係を疑うようになる・・・
最後まで読み終えると、あれっ?
戻って読み返すこと数回、
なるほどこういうことだったのか。
トリックというか、どんでん返しというか、
見事にだまされた。
「MISSING」「FINE DAYS」のころのような透明感はないが、
なかなか上質のミステリー。
少なくとも前作の「正義のミカタ」よりは好みの作品。
評価:★★★★
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January 08, 2009

湊かなえ「告白」を読んだ。
昨年の週刊文春「ミステリーベスト10」で
1位に選ばれるなど評価の高い作品。
校内で娘を亡くした女教師が退職することになった。
彼女は最後のホームルームで、
娘は事故ではなく殺人、
このクラスの中に犯人が2人いると主張する。
そして最後はおぞましいほどの復讐劇となる。
続く2章から6章までは、
語り手を変えながらの独白形式で物語は続く。
「クラスメートの少女」「主犯の少年」「共犯の少年」
「共犯の少年の母親」「共犯の少年の姉」、
それぞれの人物が別の視点から語ることで、
読者には事件の全ぼうが見えてくるという仕掛け。
この構成も非常に美しい。
最終章ではとんでもない幕引きが準備されている。
後味は悪いが、こんなインパクトのあるラストは稀。
評価:★★★★★
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January 07, 2009

落語家、立川談春のエッセイ「赤めだか」を読んだ。
談春が二つ目になるまでの修行時代を中心に
真打ち後の最近のエピソードまでを描いている。
さすが噺家、絶妙なテンポで話が進んでいくので
ページをめくるのが楽しい。
あれよあれよといううちに読み終えてしまった。
修行中のさまざまなエピソードが紹介されているが、どれも絶品、
おかしくて涙が止まらなかった。
そして最後に、談志と五代目小さんとの確執についても触れる。
これは感動の涙、涙。
先日、テレビの「情熱大陸」で談春が取り上げられた。
歌舞伎座の談志親子会から、昨年末25日の
独演会(大阪フェスティバルホール)までを追ったドキュメント。
親子会で師匠の十八番「芝浜」をやって師匠を不機嫌にさせ、
ポリープの手術を経たあと、
大阪の独演会で再度「芝浜」を取り上げ
満席の会場をうならせ決着、というシナリオ。
番組を見て、今、独演会のチケットが最も取りにくいと
言われている談春の高座を
ぜひ生で見てみたいと思った。
評価:★★★★★
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January 06, 2009

南木佳士の「草すべり その他の短篇」を読んだ。
20年以上前、朝日新聞で偶然見つけたエッセイ
(後に「ふいに吹く風」収録)に惹かれ、
以降、新刊を読み続けている作家のひとり。
著者がパニック症候群からうつ病をへて
たどり着いたのが、山登りという楽しみ。
「草すべり」「旧盆」「バカ尾根」「穂高山」の4つ短編には、
著者の生と死にかかわるさまざまな記憶が
登山とともに描かれている。
「草すべり」は、高校時代に憧れていた女子生徒から
突然誘われて浅間山に登る話。
男なら誰しもこんな夢を見るものだ。
誘われることはないにしても、会って顔を見てみたい、
年を重ねていくとそんな思いがつのってくる。
もちろん、実現するはずもない夢なのだが。
著者の小説には、
心にしみる言葉、文がいっぱい出てくる。
この短編集でも、何度も前に戻って読み直しながら
じっくりと味わった。
中でも、こんな一節。
「山歩きは人生の復路に入ってから始めたほうが、
より多くの五感の刺激をからだに受け入れられる気がする。
若いからだは余剰の熱を外に向けて発散するばかりだが、
老い始めると、代謝の低下したからだは
外部からのエネルギーを積極的に取り込むようになる。
鳥の声、針葉樹林の香り、濃すぎる青空、
鮮やかな緑の苔、沢の水音、木漏れ陽。」
(「旧盆」より)
私も3月で五十。これを機に山歩きを始めようと決めた。
ブログのタイトルも変更し
「るうかすの これからは山を歩くのだ」
にしようかな。
評価:★★★★★
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January 03, 2009

年末の休みに、天童荒太の「悼む人」を読んだ。
浮浪者さながらに旅をしながら
事故や事件などで亡くなった人を
悼み続けている青年、坂築静人が主人公。
亡くなった人は誰を愛したのか、
誰に愛されたのか、どんなことで感謝されたのか、
そんなことを、残された遺族や現場付近の住民から話を聞き、
亡くなった人の存在を胸に刻む。
静人はいつしか「悼む人」と呼ばれるようになるが、
死を悼む、という行為自体が一般の理解を得られるはずもなく
時に警察に通報されたりする。
この静人を巡って、雑誌記者の蒔野抗太郎と、
夫を殺した女、奈義倖世、
そして末期がんの静人の母、坂築巡子、
3人のドラマが展開していく・・・
結局最後まで、静人の行動を理解することが
私にはできなかった。
しかし、作家の重松清が朝日新聞の書評で
こんなことを書いている。
「静人は、いわば鏡なのだ。
物語の中の3人が静人によって
自分自身の〈愛や死に対する考え〉を問い直されるように、
物語の中の静人を見つめる読み手のまなざしも
また、そのまま自分自身へと返ってくる。
いままであたりまえのようにして受け容(い)れていた
〈愛や死に対する考え〉を根底から問い直される。」
まったく同感だ。
3人のドラマの中では
末期がんにおかされた静人の母巡子が一番印象に残った。
死にゆくということはどういうことか、
最後まで人間としての誇りを持つことがいかに大切かを、
あらためて感じさせられた。
そして最後に命が交代していく場面には
神々しいものを感じた。
決して読後感のいい本ではないが、
読みごたえのある1冊。
評価:★★★★★
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December 22, 2008

飯嶋和一の「出星前夜」を読んだ。
とにかく厚い本、重さは600グラム。
そのボリュームに手に取るまで相当の覚悟が必要だ。
松倉藩の不当な年貢取り立てや圧政で
困窮にあえいでいた島原半島の住人。
さらに追い討ちをかけるように伝染病が蔓延、
子どもたちが次々に倒れていく。
長崎の医師・恵州は庄屋の甚右衛門からの依頼を受け、
島原に入り治療にあたっていた。
しかし代官所は恵州を追い返してしまう。
怒り心頭の若衆・寿安が立ち上がり、
若者たちとともに反乱を起こそうとする。
これをきっかけになり各地で村人が蜂起し、
次第に大きなうねりとなっていった・・・
天草四郎が率いた「島原の乱」を描いた作品。
キリシタンの反乱だと日本史で学んだはずだが、
実際には島原半島を治めていた松倉藩の圧政、
隠れキリシタンの弾圧を大義名分にした無謀な年貢の取り立てによって
追いつめられた村人たちが起こした農民一揆であったことが分かる。
物語の後半になって、
村人たちは原城にろう城し、最後は全滅する。
一方で、寿安は長崎で数奇な運命をたどることになる。
自分が奪った命の数だけ、人を助けたいという思いから、
恵舟の下で医者の見習となり
疫病から子どもたちを守ろうとする。
2万7千人全滅という絶望的な史実の後で、
成長した寿安が描かれるエピローグは、
未来への光明となって読み手を救っている。
文句無しの傑作、今年一番の収穫となった。
評価:★★★★★
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December 21, 2008

朝倉かすみの「田村はまだか」を読んだ。
40歳の男女5人が同窓会の三次会で、
札幌ススキノのスナック「チャオ!」を訪れた。
バーのマスター花輪春彦に常連の永田一太、「腕白」池内暁、
「いいちこ」加持千夏、「コルレオーネ」坪田隼人、「エビス」伊吹祥子が
まだ到着しない同級生の田村を待っている間に、
それぞれ過去を振り返る。
構成がうまい。
第一話はマスター花輪の視点で描かれている。
客も、常連の永田の名前が出て来るだけで、
ほかはその他大勢。
第二話になると、池内暁と二瓶正克の2人が登場。
これは第一話とは別の話かなと思っていたら
最後になってつながってくる。
以後、客たちの仕事や家庭の話が続き、
名前や心の奥底に秘めた思いが次々と明らかになっていく。
意外な展開で田村が登場、
それまでのコメディモードが急転する。
そして最後に二瓶と田村は顔を合わせる。
二瓶の言葉、
「きみ、いい男だね」
思わずにやりとさせられ物語は終わる。
最後はしみじみするとてもいい作品だった。
評価:★★★★
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December 17, 2008

プチ大人買い、かな。
これで正月休みの楽しみができた。
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December 13, 2008

百田尚樹の「ボックス!」を読んだ。
高校の運動部を描いた小説といえば
昨年は佐藤多佳子の「一瞬の風になれ」が印象に残った。
今年はこの作品。
ボクシングに天賦の才能を持っているが
勉強はまるでできない鏑矢と、
優等生だが運動は苦手で喧嘩に弱い同級生の木樽。
全く違う性格の2人の高校生が主人公。
舞台は高校のボクシング部で、
同部顧問の耀子の視点から
二人の高校生がボクシングの練習、試合だけでなく
さまざまな体験を通して成長していく過程が描かれている。
昔はボクシングのタイトルマッチがある日は、
テレビの前に釘付けだった。
いつの頃からか見なくなって、今はほとんど関心もない。
ボクシングの魅力はルールの分かりやすさだと思う。
いくつかの反則はあるが、
基本的にパンチを相手に当て、倒したほうが勝ち。
ところがこの小説を読んで、
競技としての奥の深さを感じた。
アマチュアのボクシングは
格闘技ではなく、あくまでスポーツ。
ダウンよりはポイントを重視すること、
高校の部活においては、所属したからといって、
すぐには試合には出られないことなど、
安全がまず第一のスポーツなのである。
さてこの作品では、
熱い物語だった。
ラスト近く、一度をリングを去った鏑矢が
亡くなった丸野との約束、優紀の思いを胸に
再度最強のボクサー稲村との試合に臨むという
いかにもベタな展開と分かってはいても目頭が熱くなってしまった。
そして後日談、
さわやかなエンディングはお見事!
著者は人気番組「探偵ナイトスクープ」で知られる放送作家、
前作の「永遠の0」も傑作だった。
今後も期待大。
評価:★★★★★
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November 23, 2008

佐藤多佳子のノンフィクション「夏から夏へ」を読んだ。
タイトルだけでは内容が全く分からないが、
日本の陸上男子4×100メートルリレー(以下、4継)の代表選手を
07年夏の大阪世界陸上から、今夏の北京五輪直前までを描いたもの。
そしてタイミングがいいことに、
出版された直後、五輪で銅メダルを獲得している。
北京五輪で一番の感動シーンは、この4継の銅メダルだった。
有力国が失格したために訪れたメダル獲得のチャンス。
そして結果を出したのだが、決して運が良かっただけでないことが
このノンフィクションを読むとよく分かる。
4継の日本代表の4人、
塚原直樹、末續慎吾、高平慎士、朝原宣治、
そしてリザーブの小島をていねいに取材し
初心者の視点から、極上のノンフィクションに仕上げた。
五輪の前に読んでおけば、
感動も数倍だったろうと少々残念に思った。
著者は「一瞬の風になれ」で陸上部の高校生たちを描いた。
このノンフィクションでも、
選手たちの高校時代の監督からのインタビューを交えているのは
高校時代に選手たちのルーツがあると感じているからだろう。
視点として面白いと思った。
評価:★★★
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November 06, 2008

小川糸の「食堂かたつむり」を読んだ。
大失恋により失語症となった主人公の倫子。
絶望の中で故郷に帰りレストランを開く。
その名も「食堂かたつむり」。
倫子が一人で切り回しているためお客は一日一組。
事前にメールなどで客とやり取りをして、
その客にふさわしいメニューを準備する。
食材は近くの森や畑でとれたものばかり。
こだわりではどこのレストランにも負けない。
いつしか食堂かたつむりは、幸福をもたらすお店、
小さな奇跡が起こる店としてうわさが広がる・・・
お客たちのエピソードが淡々と語られ
物語は静かに進んでいく。
倫子の失われた声はなかなか取り戻せないし、
母親との確執も解けることがない。
後半になって大きく展開する。
ペットのブタ・エルメスの結末は衝撃的で、
目をそらしてしまうほど。
しかし料理というのは、食材の命を投じて作られているという
考えてみれば当たり前のことを再認識させられた。
「いただきます」と「ごちそうさまでした」の気持ちは
いつも忘れずにいたいと思った。
すべてを包み込む優しいラストが味わい深い。
評価:★★★★☆
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November 02, 2008

石田衣良の話題作「夜の桃」を読んだ。
いわゆる官能小説、
平たく言えばエロ小説。
主人公の雅人は40代の、ネット広告プロダクション社長。
表参道に自宅を持ち、美しい妻もいる。
外では30過ぎのバツ1女性と付き合っている。
ある日、雅人の会社に新しく入ってきた契約社員の千映。
雅人は20歳年下の千映から誘われて深い関係となり、
誰よりも「肌の合う」彼女に夢中となる・・・
男の願望を物語にした、ということかな。
さすが石田衣良、男性の心理をみごとに突いている。
うん、うんとうなずく場面も少なくなかった。
評価:★
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October 30, 2008

中田永一の「百瀬、こっちを向いて。を読んだ。
聞きなれない名前だと思っていたら
某有名作家の別のペンネームらしい。
タイトル作と「なみうちぎわ」「キャベツ畑に彼の声」「小梅が通る」の
短編4作品が収録されている。
関連性はないが、どれも主人公が地味で、
一風変わった恋愛を描いている。
一番気に入ったのは最後の「小梅が通る」。
容姿に恵まれた女子高生が、
転校先の学校ではブスのメイクをして地味に生活している。
前の学校では、その美形のせいで
男子からは絶大な人気を誇り
一方、女子からは誰よりも嫌われていた。
自分の顔のせいで周りの人たちの態度が大きく変わってしまうことで、
人間不信に陥っていた。
ある日、偶然会った同級生の男子に
つい、妹の小梅と名乗ってしまう。
小梅を気に入った男子は、会わせて欲しいとせがむのだが・・・
4作品とも余韻のある終わりかたが印象に残る。
まさに、恋愛小説の王道。
ベタなラブコメ、おこちゃま向け青春小説と言えばそれまでだが、
ときにはこんな小説も気晴らしにいい。
評価:★★★★
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October 24, 2008

和田竜の「のぼうの城」を読んだ。
ベストセラーになり、漫画化、映画化も進んでいるという。
戦国時代の末期、現在の埼玉県行田市の
武州忍城(おしじょう)が舞台。
秀吉の小田原攻めの最中に、
石田三成は総大将として忍城攻めを命じられた。
迎え撃つ忍城は「のぼう様」と呼ばれていた成田長親が城代を務め、
三成の大軍を迎え撃つこととなった。
忍城には坂東武士の血を受け継ぐものたちが揃っていた。
しかし兵力は百姓を合わせても2,600人であるのに対し、
敵は2万3千人余で力の差は歴然。
勝ち目は無いように見えた。ところが・・・
久しぶりに読んだ歴史小説は、痛快きわまる傑作。
史実に基づいているとのことだが、
実際にはこんなうまくはいかないだろう、
きれいごとではすまないだろうと思う。
それでもこの小説にひかれるのは、
登場人物が皆、個性的で魅力的だから。
石田三成、大谷吉継、長束正家ら、戦国の有名な武将たちはもちろん、
成田家の家老、正木利英、柴崎和泉守、酒巻靭負ら、
無名の武士たちの描き方も巧み。
映画化するならどの役柄にどの俳優を充てようかなと
思い描くのも楽しい。
もともと脚本だったものを
小説化したのだから、それも当然か。
一人忘れた。
ヒロインともいえる甲斐姫はいいなあ。
どの女優に演じてもらおうか。
評価:★★★★☆
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October 15, 2008

吉田修一の「さよなら渓谷」を読んだ。
渓谷で幼児の遺体が見つかった。
近くの市営住宅に住む母親の立花里美が疑われ、
マスコミが住宅周辺を取り囲む。
容疑者に迫るレポーターの様子は、
数年前秋田県で起きたあの畠山鈴香容疑者の
児童殺人事件を思い出させる。
ところがこの小説の主役は立花里美ではなかった。
隣に住む契約社員の尾崎俊介が、
15年前に起きたある事件の犯人であり、
妻かなこは事件の被害者であることが分かってくる・・・
この小説、リアリティがないのが一番の弱点か。
暴行を受けた女性が、
年月が経過したにせよ、犯人の男性と一緒に住むという設定は
理解に苦しむ。
しかしながら、立花親子から尾崎とかなこ、
さらにはライターの渡辺がからんでの話の展開は実に見事。
スリリングですらある。
尾崎とかなこの背負っている重荷が、
読み手にもずっしりとのしかかってくる。
テーマは「歪んだ愛と憎悪」であろうか。
ワタシには重すぎた。
評価:★★★
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October 14, 2008

桐野夏生の直木賞受賞作「柔らかな頬」を読んだ。
森脇カスミは夫道弘の仕事相手石山と不倫関係にあった。
ある日、石山が購入した北海道の別荘に
互いの家族を連れて行くことになった。
納戸でこっそりと逢引をする二人。
ところがその直後、カスミの長女有香が行方不明となる。
4年の歳月が流れた。
カスミは一人きりになってもまだ、有香を捜し続けている。
そこに、ガンで余命いくばくもない元刑事の内海が現れる。
内海は死ぬまでにこの事件の真相究明をしたいとカスミに訴え、
深い絶望を抱えた二人は有香を捜す旅に出る。
上下巻の文庫本を一気読みをしたが、
これだけ落ち込む小説は珍しい。
深い穴にはまってしまったような読後感は、
今までに経験したことがない。
北海道を点々とし精神的にも追い込まれていく二人の様子は
あまりにも悲しく、痛々しい。
内海の壮絶な生き様を見せつけられた後の結末、
有香はどうなったのか、どこかで生きているのか、
あるいは誰かに殺されてしまったのか、
真相が曖昧なまま終わってしまう。
戸惑いながらも、
そうか、こういう終わり方もあるのかと、
感心したりもした。
評価:★★★★
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September 15, 2008

桜庭一樹の直木賞受賞後第一作「荒野」を読んだ。
恋愛小説家の父を持つ12歳の少女、山野内荒野が主人公。
もう子どもではないが大人ともいえない、
そんな微妙な年ごろの心の揺れを描き出している。
前半は、少女マンガのように軽く、
読み続けるかを迷うくらいの内容だった。
第二部での義母・蓉子さんの妊娠あたりから
わくわくして先を読むようになった。
荒野と悠也、そして中学からの友達、
麻美と江里華を中心に話は進む。
一方でパパと蓉子さん、そして取り巻く大人たちの関係が、
何とも色っぽく描かれており、
こちらの展開の方が楽しめた。
読み終えてから知ったが、
この作品、以前に文庫で出版された少女小説をベースに
加筆して1冊の本にまとめたらしい。
確かに面白いのだが
「赤朽葉家の伝説」「私の男」に比べたら
ずっと読みやすいし毒もない。
そこが評価の分かれるところだろう。
評価:★★★★
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August 26, 2008

井上荒野の第139回直木賞受賞作「切羽へ」を読んだ。
かつて炭鉱で栄えた小さな島の小学校で
養護教員をしている主人公のセイ。
画家の夫・陽介と二人で、
平穏な日々を送っていた。
ある日、島の小学校に、
若い音楽教師の石和が赴任してくる。
夫を深く愛しているセイだが、
得体の知れない彼に、しだいにひかれていく・・・
島の女性たちが魅力的。
物静かで、胸騒ぎをけっして表に出すことのないセイ、
対照的に、自由奔放な同僚の月江。
あっけらかんとして、すべてを見透かしてしまうような老婆のしづかも、
その言動にはとても生命力を感じる。
まるで印象派の絵画や音楽のような
小さな島の穏やかな日々。
しかしそこで繰り広げられる、
月江の「本土」さんとの不倫、石和を含めた三角関係、
しづかの病床での性的な妄想などの現実は、
激しい描写はほとんど無いのに官能的。
想像力をかき立てられる作品だ。
評価:★★★★
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August 10, 2008

桐野夏生の「東京島」を読んだ。
クルーザーで世界一周旅行の最中に遭難し、
無人島に漂着した一組の夫婦、隆と清子。
3カ月後には、与論島のきついバイトから脱出した
若い日本人男性約20人、
さらに3年後には、密航中に放り出された
中国人男性約10人が漂着し、
何もない小さな島で生を共にすることになった。
島はトウキョウジマと名づけられた。
日本人の若者たちは群れはじめ、
ブクロ、ジュク、シブヤと名付けた集落を形成していくのに対し、
中国人たちはホンコンと呼ばれる地域で共同生活をする・・・
無人島での自給自足生活、
しかも女性が一人だけという極限状態で、
人間が生き延びるためにはどんな行動をとるのか。
大変興味深い設定ではあるが、
だいたい予想どおりの展開となっている。
ところが著者が準備したエンディングは
予想をはるかに超えていた。
漂流者たちの運命は大きく二つの方向に。
一方では人類が進化してきた過程そのままに、
新たな自治区、小さな国ができ、
もう一方は、うーん、これはどうなんだろう、
驚きの展開だけど嫌いじゃない。
評価:★★★★☆
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July 29, 2008

佐々木譲の「警官の血」(上・下)を読んだ。
上下巻で800ページを超える大作は、
'08年「このミステリーがすごい!」の第1位に選ばれている。
戦後、警察官となり、
出世よりも地元のひとたちに慕われる
駐在所勤務を選んだ安城清二。
ところが管内で発生した2件の殺人事件を追ううちに
近くの寺の五重塔が炎上する中、不審な転落死を遂げる。
父の志を胸に息子の民雄も警察官の道を選んた。
大学に入学し過激派を捜査するという特命を受け、
見事、任務を果たすと、
父と同じ谷中の天王寺駐在所の勤務となる。
次第に父の死の謎に迫って行く。
ところが民雄もまた非業の死を遂げる。
その息子、和也にも、清二、民雄と同じ血が流れていた。
警察官となり、また特命を受けて、
今度は悪徳警察官の摘発に大きな力を発揮する。
そして、半世紀を経て和也がたどり着いた
祖父と父の死の真実とは・・・
半世紀にわたる時間の流れを縦軸に、
それぞれの時代に起きた事件を横軸に描き、
ミステリーというより、大河小説といった
スケールを感じさせる作品。
東京下町の戦後史ともいえる。
評価:★★★★★
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July 25, 2008

乃南アサの「いのちの王国」を読んだ。
北海道から沖縄まで18の動物園、水族館が紹介されている。
ガイドブックであるが、そこはさすが直木賞作家、
単なるエッセイに終わらない。
動物たちや飼育係の人たちのエピソードは、
新しい発見がいっぱいで、大変読み応えがあった。
何よりも著者の動物に対する愛情があふれていて、
心を揺さぶられた。
著者の思いは「あとがき」に集約されている。
ここだけでも立ち読みをおすすめする。
今、旭山動物園(旭川市)ばかりが注目されている。
しかし、この本を読むと、
どの動物園・水族館もそれぞれに魅力的。
足を運んで動物たちに会ってみたい、
そんな気にさせる1冊。
カメラマン・荒牧万佐行の写真も迫力満点。
写真集としても十分に楽しめる。
評価:★★★★★
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July 04, 2008

ずいぶん前に読んだ本のレビューを。
あの大橋巨泉が美術鑑賞本を書いたと聞いても、
ピンと来なかった。
昔から彼のことは好きになれない。
あの丸い顔が生理的に受け付けないのだ。
というわけで、読む気はなかったのだが、
図書館の新刊コーナーに並んでいて、
つい手に取ってしまった。
そして2日で一気に読み終えた。
「これはおもしろい!」
読後の正直な感想。
本人が素人と言ってるくらいだから、
まずは説明が分かりやすい。
まったく絵に関心がなかった人でも、
これなら十分に理解できる。
さらに私が苦手としていた、
ルネッサンスやバロックの画家を中心に取り上げている。
後の印象派に比べると鑑賞の機会が少ないと思われる、
この時代の絵の楽しみを教えてくれたのは、一番の収穫。
昨年のロンパリ芸術鑑賞ツアー、
ロンドンのナショナルミュージアムやパリのルーブル美術館で
気になった画家が何人も取り上げられていたため、
とても親近感を持った。
巨泉流の鑑賞方法はとても簡単。
「だまって歩くと絵が呼ぶんです。
呼ばれたら絵の前で2、3分立って、
何も起こらなかったら次の絵へ。
そうしていると、動けなくなっちゃうような作品に出合う。
長いと30分、動かずじっと見る。
どこがすごいんだろうとメモを取る。
わからないことは石坂さんに質問する・・・」
石坂さんとは、俳優の石坂浩二のこと。
芸能界きっての美術通で有名。
巨泉の鑑賞の仕方は、彼の指南によるものだという。
ワタシの場合、絵画鑑賞は
どうしてもガイド本や美術館の音声ガイドに頼ってしまいがちだが、
次回はぜひこの方法を実践してみようと思う。
評価:★★★★★
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June 16, 2008

NHK交響楽団の首席オーボエ奏者で、
希代のエッセイストでもある茂木大輔の新刊「拍手のルール」を読んだ。
基本的にはクラシック初心者向けに書かれているが、
そこそこ聴き込んでいる人にも
十分楽しく、ためになる内容となっている。
地方では拍手のフライングがまだまだ多く見受けられる。
最近の名古屋フィル定期では、
コンサートを聴くための注意事項を書いたチラシが
入り口で配られている。
そのためか随分、客層が良くなってきたなと思っていたところ、
6月の定期初日では、
どの曲でも、指揮者が手を下ろす前のフライング拍手。
これにはがっかり。
しかも、よりによってブルックナー9番で・・・
さてこのエッセイ、拍手だけでなく、
指揮者、曲名、曲調などに関してのさまざまな知識を得ることができる。
結構、専門的な内容も含まれるのに
堅苦しさを感じないのは、
おやじギャグを、飛ばしまくっているから。
半分くらいはすべっているが、まあご愛嬌といったところか。
というわけで、だれにも勧められるクラシックの入門書。
素朴なイラスト入りの装丁も、いい感じ。
評価:★★★★☆
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June 03, 2008

最近の読書スタイルー
ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」ともう1冊小説、
さらには新書、特に最近関心のある教育、の計3冊を
同時に読んでいる。
カラマーゾフは2巻の途中で中断、
というのも文庫本をどこかに置き忘れてしまったから。
現在捜索中。
同じ本をもう1冊買うのはしゃくだけど、
そろそろ続きを読まないとストーリーを忘れてしまいそう。
一両日中に片を付ける予定。
というわけで、東野圭吾の新刊「流星の絆」を読んだ。
前作「夜明けの街で」がいまひとつだっただけに今回は期待した。
主人公は、功一、泰輔、静奈の三人兄弟。
ペルセウス座流星群を見ようと、
夜中にこっそり家を抜け出した。
3人が深夜に帰宅すると、両親が殺害されていた。
事件は未解決のまま14年の月日が流れ、
施設を出た3人は、詐欺をしながら生きながらえていた。
ある日ターゲットにしようとした相手から、
偶然にも両親の殺害に関わる人物が浮かび上がってきた。
時効は間近、警察を動かすべく、3人は大仕掛けをする・・・
細かい点で疑問を抱かなくはないが、
それでもすらすらと読めてしまうのはさすが著者の筆力。
謎解きよりも登場人物の心理描写に重きを置いて読んだので
十分に楽しめた。
登場人物の中では、洋食チェーンの御曹司で
3人に仕掛けられる側の戸神行成が魅力的。
さてラスト、
ミステリーとしては失格なんだろうな、きっと。
でもエンタメとしては、特に女性向けには、
最高の幕切れとなっている。
ドラマ化、間違いなし。
評価:★★★★☆
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May 27, 2008

熊谷達也の「群青に沈め」を読んだ。
第二次世界大戦も末期、
予科練に入隊した主人公の浅沼だったが、
「伏龍(ふくりゅう)」という特殊部隊の隊員として抜擢された。
この作戦は、隊員が潜水服を着て海にもぐり、
敵の船艇が通過する瞬間に棒機雷で突き撃沈させるというもの。
本人も生きて帰ることはない特攻隊だ。
死を覚悟して訓練に明け暮れる毎日だったが、
なかなか出撃する気配はない。
そのうち浅沼たちは、この作戦自体に疑問を抱く・・・
盗作事件で世間をにぎわせた著者だが、
そもそも直木賞作家で、受賞作の「邂逅の森」は
マタギを主人公とした自然讃歌の大傑作だった。
今回は特攻隊を取り上げているのに、
全体に感じる軽さ、今の若者の感覚で書かれているのだろうか、
これには違和感を持った。
「新しい戦争小説」という帯のコピー、
新しいかもしれないけど、
このテーマをこんなに軽くは扱ってほしくなかった。
しかしこの「伏龍」には呆れた。
実話だというが、本気で海軍はこんな作戦を考えたのだろうか。
もし実戦に用いられ、十代の若者の命が奪われていたとしたら、
あまりにも哀しすぎる、犬死にとしか言いようがない。
評価:★★★
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May 07, 2008

道尾秀介の「ラットマン」を読んだ。
主人公の姫川亮は、
高校の同級生で結成したアマチュアバンドでギターを弾いている。
当初からのバンドのドラムは、姫川の恋人小野木ひかり。
ところが2年前からその妹の桂に代わり、
姫川とひかりの関係はギクシャクし始める。
そんなとき、練習中のスタジオ内で殺人事件は起きる。
過去に起きた事件がシンクロするなか、
殺人事件は意外な展開をする・・・
完成度の高いミステリー。
何度も続くどんでん返しに、
心地よい快感が得られる。
よくも悪くも、ミステリーファンのための作品。
タイトルの「ラットマン」は、
精神的、視覚的錯覚をあらわす絵、
心理学では有名らしい。
評価:★★★★
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May 01, 2008

宮部みゆきの「楽園」を読んだ。
主人公はフリーライターの前畑滋子。
9年前、『模倣犯 』の、あの凄惨な事件に深くかかわり、
今もショックが尾を引いている。
そんなとき、12歳の息子を事故で亡くした女性、萩谷敏子から
その子の残した絵についての調査依頼がある。
絵に描かれていたのは、ある犯罪の痕跡。
16年前に殺された少女の遺体が発見される前に、
関係者以外は知るはずもない事実を、少年は描いていた。
少年は超能力者だったのか、
それとも単なる偶然だったのか・・・
『模倣犯 』の続編、あるいは後日談ともいうべき作品だが、
残念ながら完成度は前作に及ばない。
新聞に連載されていたためか、必要以上に長い印象を受けた。
コンパクトにまとめ1冊で完結できなかったか。
それに個人的には、超能力とかオカルトっぽい設定は苦手。
それでも、さすが宮部みゆき、面白い作品に仕上げている。
ミステリーとしてぐいぐい引き込まれ、一気読みさせられたし、
親子や事件に関わる人々の、
情愛、苦悩、葛藤などの心理描写は見事。
そして最後の1ページ、
この人が登場するとは・・・泣いた。
評価:★★★★
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April 27, 2008

黒川博行の「悪果」を読んだ。
堀内は大阪今里署の暴犯担当。
暴力団・淇道会の一斉捜査・逮捕などの日常業務に励むほか、
ごろつき経済新聞の記者・坂辺と共謀して
シノギ、つまり裏商売で小遣い銭かせぎをしている。
その記者がひき逃げで死亡してから話は急展開。
ヤクザに奪われた警察手帳を取り返すため捜査をしていくうちに
専門学校経営者らの闇の部分が明らかになっていく。
勤務中にヤクザと掛け麻雀をしたり、
クラブでタダ酒を飲んだりする悪徳刑事の堀内、
その堀内から、カネやモノを吸い取るホステス・杏子、
マルチ商法まがいに洗脳されている妻、
スキャンダルを元に企業を強請るブラック新聞記者、
土地ころがしでぬれ手で粟の不動産会社経営者、
登場人物は、どいつもこいつも悪いやつらばかりだ。
しかし皆、人間くささがあって、どこか憎めない。
自分がその立場だったら、同じことをしそうな気にさせる、
これは著者の筆力なのであろう。
しかし大阪府警は、こんなにも腐り切っているのだろうか。
フイクションだと分かっていても、
警察組織をここまでリアルに描かれると、
不祥事が続く大阪府警が舞台なだけに、
すべてが作り話だとは思えないのだが・・・
とにかく痛快な1作だ。
評価:★★★★★
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April 11, 2008

梨木香歩の「村田エフェンディ滞土録」を読んだ。
物語は明治32年、
主人公である考古学者の村田は、トルコに国費留学する。
下宿先は英国人のディクソン夫人宅、
ここには他にもドイツ人のオットー、
ギリシア人のディミィトリスが、
そしてトルコ人のムハンマドが料理人として住み込んでいた。
国籍も宗教も考え方も全く違うもの同士が、
寝食を共にすることで、次第に理解を深めてゆく。
時代は第一次世界大戦の直前、
トルコの国内外でも次第に暗さを増しつつあった。
否が応でも時代の波に飲み込まれていく登場人物たち。
淡々と進む物語は最後に急展開をみせる。
胸に迫るラスト。
もし10代のころにこの本を手にしていたら
きっと違う人生を歩んでいたと思う。
図書館で借りた本だが、
ぜひ手元に置いておきたい1冊。
エフェンディとは名前の敬称、土はトルコのことで、
タイトルは「村田先生のトルコ滞在記」というような意味であろう。
評価:★★★★★
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April 07, 2008

久保寺健彦の「みなさん、さようなら」を読んだ。
主人公の悟は、小学生のときに遭遇したある事件をきっかけに、
住んでいる団地から出ることをやめた。
団地内だけで遊び、卒業後の就職も団地1階の洋菓子店、
団地の中だけが彼の生活エリアだった。
しかし小学校の同級生107人は、
月日が経つにつれ、団地から出て行ってしまう・・・
高度成長期に、大都市郊外に建てられた団地は、
過疎化と高齢化で、大きな問題を抱えている。
そこを舞台にしているのは面白いし、
団塊ジュニアの世代は、大いに郷愁を感じるかもしれない。
しかし、団地内だけでの生活を選択した主人公は理解しがたいし、
毎日欠かさないパトロール活動に関しては、
共感できないどころか、薄気味悪ささえ感じる。
評価:★★★
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March 16, 2008

山崎ナオコーラの「カツラ美容室別室」を読んだ。
第138回芥川賞候補作。
27歳の会社員淳之介が主人公で、
淳之介の年上の友人梅田さんと、
梅田さんの行きつけである、カツラ美容室別室の店長カツラさん、
そこに勤務するのエリと桃井の5人が主な登場人物。
みんなで夜桜見学へ行ってから
淳之介はエリのことを意識するようになる。
2人で美術館に行ったり、
居酒屋で急性アルコール中毒で倒れたときに介抱してもらったりするが、
2人の関係はなかなか進展しない。
そのうちにカツラさんが店を去り
後継者に桃井を指名したことからエリは荒れ始め
2人は絶交してしまう。
ところが次の年の花見にはまた揃って出掛けていくという、
つかみどころのない淡々とした物語。
恋愛や友情の描き方がふわっとしていて、
好みの問題なんだろうけど、
ワタシは特に感じるものはなかった。
評価:★★★
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February 19, 2008

万城目学の「ホルモー六景」を読んだ。
「ローマ風の休日」など6作品からなる短編集。
タイトルだけでは内容がまったく分からないが、
「鴨川ホルモー」の続編というか、登場人物の番外編となっている。
前を読んでないと、ちょっと辛いかも。
前作では、京大がメインだったが、
今回は、京都産業大、立命館大、
そしてとうとう同志社大も登場、
著者のバランス感覚が働いたのだろうか。
6編の中では、歴史上の人物が登場する
予想外の展開を見せる「もっちゃん」と、
ついほろりとさせられた「長持の恋」がいい。
歴史上の人物、だれが出て来るのかは
読んでみてのお楽しみ。
前作同様、京都の地名がたくさん出てくる。
次回からはぜひ地図かポンチ絵を掲載してほしい。
評価:★★★
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February 10, 2008

森見登美彦の「有頂天家族」を読んだ。
狸の下鴨矢三郎が主人公。
父の総一郎が人間たちに狸鍋にされたため、
三男ではあるが、残された兄弟や母を守りながら、
敵対する夷川家の嫌がらせに立ち向かう。
狸と人間、そして天狗が共存する京都が舞台。
狸と狸、狸と人間、狸と天狗がそれぞれに対立する奇想天外な物語は、
最初戸惑ったが、頁が進むにつれ、次第に引き込まれていった。
何よりも登場人(?)物のキャラクターが絶品。
それぞれに性格が違う狸の4兄弟、
その宿敵である夷川家の阿呆兄弟狸・金閣と銀閣、
天狗の力を持った美人の弁天、
年老いても弁天に執心の天狗・赤玉先生こと薬師坊・・・
ほかにも、夷川家の一人娘・海星や、
食べることは愛がモットーの淀川教授など、
濃いキャラがぞくぞくと登場。
今も連載されているようだが、
早くも続編が気になる。
2008年本屋大賞ノミネート作、
大賞の有力候補だろう。
評価:★★★★★
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January 30, 2008

井上荒野の「ベーコン」を読んだ。
第138回直木賞の候補作。
この作家の作品は読んだことなかったので
これを機に、手に取ってみた。
妻に子どもが生まれたばかりの不倫相手に対し、
母の得意料理をふるまう「ほうとう」。
飼い猫を探しているうちに、
つい出来心で若い男性と性行為をする「アイリッシュ・シチュー」。
家を出た亡き母が、
一緒に山奥で暮らしていた男の元を何度も訪ねる「ベーコン」。
男女の仲と、それにまつわる食べ物の短編が
9編収められている。
たしかに食べ物の印象、例えば味やニオイ、食感、
あるいは誰と一緒だったとか、その場の雰囲気とかは、
記憶に残っているものだ。
それが異性にかかわるものであれば、なおさらのこと。
どの作品も、食べ物の表現と男女の微妙な心の揺らぎが
生々しく描かれている。
短編はあまり好きではないが、
これは久しぶりに気に入った。
評価:★★★★☆
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January 26, 2008

書店で雑誌を立ち読みしていたら、
紐で縛ってある男性誌を見つけた。
間に挟まっていたのは映画のDVD、
表紙には「特別付録カサブランカDVD」とある。
今月号の特集「青春の映画ベスト100」で1位に輝いたカサブランカの
DVDを付録にしてしまおうという、なかなか大胆な企画。
普段の税込み価格は680円に対し
今月は特別価格で880円、格安だと思う。
で、1冊購入。
40ページにわたるカラーグラビア特集、
「ルーヴル美術館を愉しむ。」も読み応えあり。
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January 24, 2008

馳星周の「約束の地で」を読んだ。
第138回直木賞の候補作。
会社を共同経営していた友人にだまされ、
一文無しになった誠は、
自殺しようと生まれ故郷に戻ってきた。
ところが飲み屋で古い知人から、
一人暮らしの父親に多額の貯金があることを聞き、
その金を当てにしようと考える。
母と妹が事故死してからは、父親と没交渉の状態。
今さら金を無心することができなかったため、
留守を狙って山小屋に足を踏み入れる・・・
(第一話「ちりちりと」)
北海道の寒い時期を舞台にした5つの短編集。
どれも救いようのない男と女の物語で、
幸せなエンディングを迎えることはない。
しかしそれほど不快感が残らないのは、
著者の筆力なのだろうか。
この著者は初めてだったが、
ぜひ他の作品を読んでみたいと思った。
それぞれ独立した物語なのだが、
脇役のひとりが次の作品の主人公として登場し、
最後の作品に最初の主人公が脇役として登場する。
5つの作品が環のようにつながり、
短編集全体で一つの世界を作り上げている。
この構成も気に入った。
評価が4なのは、
第三話「世界の終わり」で、
少年がナイフで警官二人を刺し殺すシーンが
どうしても理解できないから。
殺してなかったら5つ星。
評価:★★★★
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January 22, 2008

青山七恵の「ひとり日和」を読んだ。
第136回芥川賞を受賞した作品。
20歳の知寿はフリーター、
母親が仕事の都合で単身中国へ渡ることになり、
遠縁で71歳の吟子さんの家に転がり込む。
50歳の年齢差がある2人の女性、
その共同生活やそれぞれの恋愛を淡々と描いている。
自立した生活が始まろうとしたとき、
知寿は会社の既婚者の男に誘われ、
心弾ませながらデートに向かう。
行き先は競馬場。
新たな恋は、幸せな結末を迎えるとは到底思えない、
暗示的なラストシーンが不思議な余韻を残す。
評価:★★★★☆
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January 20, 2008

大石英司の「女神のための円舞曲」を読んだ。
身神音々(みかみ・おとね)は、
尾道市の中学校教員で、ブラスバンド部の顧問。
25年前に亡くなった母が死ぬ直前に、
将来コンサートを開催するため
文化ホールを予約していたことを知る。
しかも音々の名義で。
疑問を持ちながらも、
コンサートを実現させるため奔走する・・・
主人公の音々を軸にして、
筋ジストロフィーで闘病生活を送る青年の家族捜しや、
殺人事件の捜査などが複雑に絡む、
ミステリー仕立ての作品となっている。
ラストのコンサートに向け、次第に事情が明らかになるのは、
濃い霧が次第に晴れていくような爽快さがある。
しかしご都合主義の部分も多く、ワタシは楽しめなかった。
2度訪れたことのある、旧瀬戸田町の風景描写の場面では
しばらく感傷に耽ることができたのだけれども・・・
評価:★★
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January 17, 2008

角田光代の「八日目の蝉」を読んだ。
'07年度「中央公論文芸賞」受賞作。
OLの野々宮希和子は、
ある朝、不倫相手の家に忍び込み、
6カ月の赤ちゃんを連れて逃亡する。
友人宅などを渡り歩いた後、
新興宗教まがいの「エンジェルホーム」にたどり着く。
ここで他の女性たちと共同生活を続けたが
マスコミに騒がれ始めると逃げ出し、
瀬戸内の小豆島で新しい生活を始める・・・
1章では、希和子が薫と名付けた赤ちゃんを連れて逃げ、
小豆島で暮らすまでを、希和子の視点で描く。
2章では、その17年後、
大人になった薫(恵理菜)の視点で、
事件の経過を順にたどっていく。
誘拐という許されない罪を犯した希和子なのだが、
薫への無償の愛は何とも切なく、
共感さえも覚えてくる。
しかし2章で、犯罪の詳細が明らかになり、
一番の被害者である恵理菜の苦悩する姿を見るにつけ、
やはり重罪であったことを再認識させられる。
クライマックスは終盤に訪れる。
希和子が港で叫んだ言葉、
「その子は朝ごはんを食べていないの」
このあたりから涙腺がゆるんできて、
鮮やかなラストでは、文字がかすんで見えなくなった。
心を揺さぶられる傑作。
評価:★★★★★
本の評価で5つ星を付けるのは
年に片手程度、つまり5作品と、基準を決めている。
しかし今年に入ってから5つ星が続き、
この作品で4冊目となってしまった。
ちょっと甘いなとは思うけど、
いい本との出会いに感謝しよう。
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January 12, 2008

金城一紀の「映画篇」を読んだ。
「太陽がいっぱい」など5本の映画をテーマに、
友情や愛を描いた短編集。
映画を通じた親友・龍一との友情を描く「太陽がいっぱい」。
連れ合いが自殺し、引きこもってしまった主婦が
レンタルビデオショップの店員の若者から
力を得る「ドラゴン怒りの鉄拳」。
学校生活に飽きた高校生カップルが強盗を企てる
「恋のためらい/フランキーとジョニーもしくはトゥルー・ロマンス」。
両親が離婚協議中の少年が、いじめッ子に囲まれたとき
突如として現れ彼を助けた
謎のおばさんライダーを描く「ペイルライダー」。
夫を亡くしてへこんでいたおばあちゃんを、
元気づけるために映画上映を計画する孫たちを描いた「愛の泉」。
5作品はゆるやかにつながっている。
レンタルビデオ店や、
金持ちの主婦がアラブ人の若者と恋に落ちる謎のフランス映画、
製薬会社の薬害事件、
そして全篇に登場するのが「ローマの休日」上映会。
ここでは、登場人物が一堂に会し、
さながらロバートアルトマン監督の群衆劇といった雰囲気。
映画好きにはたまらない。
本の前扉にある「ローマの休日」の
手作りポスターもイカしてる。
ところで前述した“謎のフランス映画”、
これは実在するんだろうか。
全く見当がつかないだけに気になってしまう。
評価;★★★★★
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January 07, 2008

伊坂幸太郎の「ゴールデンスランバー」を読んだ。
街中に監視システムが設置され、
市民の行動が管理されている近未来の仙台が舞台。
地元出身の金田首相が、パレードの最中に爆殺された。
容疑者としてでっちあげられたのが主人公の青柳雅春。
昔の恋人や友人、あるいは新たに知り合った
一風変わった人たちに助けられながら、
訳も分からないうちに逃亡するのだが・・・
いつものことながら展開がうまい。
第一部、第二部では、マスコミを通した事実が
読者に知らされる。
第三部で「事件から二十年後」が語られ、
第四部からは、青柳雅春と樋口晴子の交互の語りで
物語の真実が次第に明らかになっていく。
数多くの人物が登場して、さながら群像劇、
そんな中でも気に入ったのは青柳雅春のお父さん、
子どもらしくない樋口晴子の長女、七美、
全然怖くない通り魔の三浦、
とぼけた花火屋の轟社長など、
個性豊かな登場人物が散りばめられ、
読者を楽しませてくれる。
ラスト近く、父に届いた手紙「痴漢は死ね」、
参った、本当にうまいなあと思う。
音楽の扱いも巧みな著者、
今回のタイトル「ゴールデンスランバー」はザ・ビートルズの名曲で、
アルバム「アビイロード」B面を飾るメドレーの1曲目。
歌詞が作品のテーマにもなり幾度となく挿入される。
この作品、第138回直木賞の候補は確実だろうと思っていたが、
昨日の発表で、残念ながら選ばれていなかった。
またもや賞に嫌われたらしい。
評価:★★★★★
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January 02, 2008

東野圭吾の最新作「ダイイング・アイ」を読んだ。
後で知ったのだが、10年前に「小説宝石」で連載されていた作品が
やっと書籍化されたものらしい。
何者かに襲われて記憶の一部を失った主人公の雨村慎介は、
過去に自分が車で死亡事故を起こしていたことを知らされる。
その暴漢はすぐに自殺するが、
交通事故で死なせてしまった女性の夫であった。
どうして自分は事故を起こすことになったのか、
腑に落ちない彼は事故のことを調べ始める。
なぜか、その事故に触れたがらない周りの人たち。
そして、彼の前に現れるようになった謎の女、瑠璃子・・・
サイコホラーというか、コラーミステリーというか、
著者には珍しいジャンルの作品。
事故死の生々しい描写にはぞくっと来た。
しかし、テンポの良さはいつもどおり、
トリックもちょっと強引ではあるけれど
謎解きの楽しみを十分に味わえた。
生々しい性描写は
「宝石小説」ならではの読者へのサービスだろうか。
評価:★★★★
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January 01, 2008

あけましておめでとうございます。
今年も拙いブログにおつきあいをよろしくお願いします。
年末に、近藤史恵の「サクリファイス」を読んだ。
「キノベス2007」の第1位、
「このミス」などでも高い評価を得ている。
主人公の白石誓は、自転車ロードレースのプロチームに在籍。
チーム内での役割は、エース石尾豪のアシスト、
自分のためではなくエースを勝たせるために働くことを
要求されるポジションである。
才能はあるが、性格から自分がエースになろうとはせず、
アシストであることに不満を持たずにいる白石。
しかしその走りが次第に認められ、
エース候補にも名前が挙がるようになった。
そして、スペインのプロチームが、
日本人のアシストをスカウトするという話が聞こえてきた。
そんな中、レース中に大事故が発生する・・・
読み始めは青春小説、最近流行のスポーツ物のような印象だが、
事故が起きてからは、がぜんミステリー色が強くなってくる。
二転三転する仕掛けが見事で、
悲惨な事故を扱っているのに、
さわやかな結末となっている。
作品の切れ味はもちろん高い評価が付けられるが、
自転車ロードレースという未知のスポーツに
興味を持たせてくれたことにも感謝したい。
評価:★★★★★
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December 31, 2007

松浦寿輝の「川の光」を読んだ。
川辺の土手に穴を掘って生活するクマネズミ親子の
勇気あふれる物語。
町のなかを貫いて流れる川が暗渠化される工事が始まり、
親子は、上流を目指して移動することになった。
ところが地上ではイタチやネコ、そして大きなドブネズミ、
空からはカラスやノスリなどが親子を狙う。
窮地に立ったときに助けてくれたのは、
ゴールデンリトリバーの心優しい飼犬や古い洋館に老婆と住む猫、
スズメの親子など。
波瀾万丈のうちに物語は進む。
まるで児童書のような内容で最初は戸惑ったが、
次第に物語の中に引き込まれていった。
単なる冒険活劇ではなく、
家族、友情、環境などについて再認識させてくれる。
「別の誰かの命を救うことで、借りを返す。
そうやって貸しと借りが順ぐりに回って、この世は動いてゆく。」
「生きるという事は、たとえば走る事だ。
真夜中だった。
ところどころに、灯る水銀灯に照らされた闇の中を、三匹は走っていた。
走るというのは、ただ脚を動かすというだけのことではない。
体に、顔に、風を浴びることだ。
足の裏で地面を踏みしめ、地面を蹴って、前へ前へと進んでいくことだ。
木のにおい、草のにおいを嗅ぎ、それがどんどん別の匂いに移ろっていくのを
全身で感じとることだ。」
人生訓もうまく取り込まれていて、
いろいろと考えさせられる作品だった。
著者は詩人でありフランス文学者(東大教授)、
さらには「花腐し」で芥川賞受賞という作家の顔も持つ。
今度は児童文学、なんと多芸な人だろう。
評価:★★★★☆
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December 23, 2007

堀江敏幸の「めぐらし屋」を読んだ。
主人公は40歳前後の独身OL蕗子さん。
ある日、離婚していた父が亡くなった。
遺品の大学ノートを広げると、
そこには幼いころの懐かしい絵と、
見慣れない「めぐらし屋」の文字が。
忘れかけていた父の記憶が次第に蘇るとともに
徐々に生前の「めぐらし屋」としての父の姿が
浮かび上がってくる。
ほんわかとした蕗子さんの性格と、淡々とした時間の流れ、
そして、著者のデティールの巧みさにより
読者を「堀江ワールド」に導いてくれる。
物語は何も解決しないうちに終わる。
そう、父は教えてくれた、
〝わからないことは、
わからないままにしていておくのがいちばんいい〟
評価:★★★★☆
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December 20, 2007

東野圭吾の「夜明けの街で」を読んだ。
家族がある渡部だったが、
ふとしたきっかけで派遣社員の仲西秋葉と一線を越えてしまった。
付き合い始めて分かったのは、秋葉が複雑な家庭の事情を抱えていたこと。
15年前に両親は離婚し、母親は自殺、
さらに父親の愛人が自宅で殺害される事件が起きていた。
その現場に倒れていた秋葉は、
真犯人の容疑をかけられていたが、事件は解決しておらず、
まもなく時効を迎えようとしている。
愛する女性がもしかすると犯罪者かもしれない、
渡部の心は揺れ動く・・・
つまらなかった。
ミステリーとしても魅力なし。
不倫恋愛小説としてなら、多少は評価する人がいるかも。
帯の「最高傑作」は笑わせる、
というか東野ファンにしてみれば冒とくに近いな、これ。
評価:★★
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December 13, 2007

森絵都の「永遠の出口」を読んだ。
紀子という女の子の
小学4年生から高校卒業までを綴った連作短編集。
小学生のころの誕生会や給食、
高校に入ってからのアルバイト、恋愛、そして卒業。
第三者からはどれも平凡なエピソードに見えるが、
本人にとっては初体験のことばかり。
いろんな事件に遭遇しながら、
少しずつ成長していく姿が何ともいじらしい。
どの短編も時代を生き生きと描き出しているが
家族4人での旅行を題材にした「時の雨」は特にいい。
評価:★★★★☆
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November 29, 2007

著者の横石さん、某業界では有名な人。
徳島県の山村、上勝町で、
落ちている葉っぱを商品化し、
市場に流通されるマーケットを開拓したのが
農協職員である横石さん。
商品は単なる葉っぱではない。
料理に彩りを添える「つまもの」である。
落ちていると葉っぱだが、
料亭に持ち込まれると1枚数十円の価値を持つようになる。
横石さんが地元のおばあちゃんたちをだましながら、
時には逆に励まされながら続けてきたことが花を咲かせた。
ここに書かれている経験の蓄積やノウハウを読んでいると実に楽しい。
そして他の多くの地域がこれを真似ようとしたが
誰一人として成功しなかった。
それは結局、その地域には横石さんがいなかったからだろう。
評価:★★★★
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November 18, 2007

表紙の楽しいイラストにつられ、
青木淳悟の「いい子は家で」を読んだ。
父、母、兄、弟の四人家族で、
大学生の弟が家族やマイホームについて観察した記録、
という説明でいいのだろうか。
この本、結構評判が高い。
楽しみにしていたのだが、
何ともヘンテコリンな話、まったく理解不能。
ブログはどうしようか迷った。
まあ、記録を残すという意味で書き記しておこう。
評価:★
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November 01, 2007

豊島ミホの「神田川デイズ」を読んだ。
東京の大学、たぶん早稲田を舞台に、
さえない学生たちの青春を綴った短編集。
主人公はそれぞれ違うものの、
登場人物が別のお話に顔を出すなど、
作品全体がゆるやかにつながっている。
学生らしく遊び回っているのではなく、
だからといってガリ勉でもなく、
目標を持たず、どこか冴えない連中ばかり。
思い返すと30年前、ワタシも同じような環境にいたわけだが、
こんなにもクラくなかった(と思ってる)。
結局、全編共感できずに読み終えてしまった。
装丁は抜群にいい。
イラストレーションは太田マリコ、
ブックデザインは鈴木成一デザイン室、
面白いイラストが目を引く。
評価:★★★
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October 27, 2007

島本理生の「あなたの呼吸が止まるまで」を読んだ。
この作家は4冊目となる。
前に読んだ「ナラタージュ」は大絶賛したのだが
さてこの作品は・・・
主人公は12歳の女子中学生、野宮朔。
父親は舞踏家、そのせいで母親は家を出て行ってしまい、
二人でアパート住まいをしている。
怪しげな舞踏の世界を垣間見ることが多く、
親しくしている父の友人も少なくない。
父を撮影している30代のカメラマン、佐倉もそんな一人で、
年の差を感じることなく、好意を抱いていた。
ところが二人の間に、ある事件が起きる。
傷ついた朔、
彼女が佐倉に対してとった行動とは・・・
すっきりしない話だった。
というか、嫌悪感さえ感じる。
中学生と30代男性の恋愛感情は
理解できないわけではないが、
事件があった後の女子中学生の心情って
あんな程度なんだろうか。
同級生の鹿島や田島は、
魅力あるキャラクターだった。
この子たちを登場させて続編ができると面白いと思った。
評価:★★★
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October 25, 2007

高村薫の「照柿」を読んだ。
文庫本化に伴い大幅改稿されている。
主人公の合田雄一郎は刑事、
今はホステス殺しを追っている。
彼の幼馴染みの野田達夫はベアリング生産工場に勤める会社員で、
佐野美保子とは結婚前からの付き合い。
ある日、美保子の夫が駅で愛人ともつれ合い、
愛人は電車事故で死亡する。
その場にいた美保子を雄一郎が見掛けたところから、
達夫を含めた3人がつながる。
雄一郎は刑事でありながら暴力団の賭博に手を染め、
美保子は事件の被疑者でありながら、
夫が取り調べを受けている間も野田と逢い引きを重ねる。
達夫は結婚をし、教師の妻を持ち、男の子もいるという家庭で、
地味ながらも真面目な人生を送っていたはずなのに
次第に歯車が狂っていく。
全編が熱い。
猛暑、ベアリング生産工場の熱処理棟の灼熱、二人の男の熱、
題名の照柿(てりがき)とは、
熟した柿の濃い臙脂色(えんじいろ)のこと。
その色から想像されるとおり、
濃密などろどろとした物語であった。
わけのわからないことが多くて、戸惑ってしまう。
合田雄一郎が美保子を一目惚れした理由、
美保子と夫が別れない理由、
そして達夫が殺人を犯した理由・・・
熱かった、あるいは熱かったからというだけでは
あまりに説得力に欠ける。
だからといって、物語が面白くないわけではない。
3人の内面の執拗な描写にぐいぐい引き込まれていった。
ラストシーンから手紙に至る部分の表現力は圧倒的。
小学4年生が、仲の良かった友達から
「未来の人殺しだ」と言われ、
どんなに傷ついたことだろう。
胸が痛む。
評価:★★★★
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October 20, 2007

北村薫の「玻璃の天」を読んだ。
第二次大戦の足音が響き始めた昭和初期の東京で、
主人公は女学校に通うお嬢さま、花村英子。
事件に巻き込まれ、自分だけでは解決できず
相談相手である花村家のお抱え運転手、ベッキーさんこと別宮が
丁寧に謎を解いてゆく。
「幻の橋」「想夫恋」「破璃の天」の3編が収められている。
犬猿の仲である兄弟の孫同士が惹かれ合うという
昭和初期版「ロミオとジュリエット」ともいえる「幻の橋」、
暗号を残して失踪した友人を探す「想夫恋」、
ステンドグラスの天窓から墜落死した思想家が、
実は殺されたのではないかという、
3編の中では一番ミステリー色が強い「玻璃の天」。
巻末の参考文献を見て分かるとおり、
著者は綿密な調査をもとに各作品を執筆している。
どれも当時の世相を如実に描き出しており、
歴史を振り返る意味でもおもしろい。
「街の灯」に続く第二弾で、まだ続編は出てきそう。
次第に主人公が英子からベッキーさんに移りつつある。
兄の雅吉も随所に登場し、これからどう展開していくのか
興味が尽きない。
評価:★★★★
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October 17, 2007

桜庭一樹の「青年のための読書クラブ」を読んだ。
東京・山の手で長い伝統を誇る女子高、聖マリアナ学園が舞台。
良家の子女が集う同学園の中では、
異色の生徒が集まるのが読書クラブ。
そのメンバーが、学園の裏の歴史を記録していくという設定。
描かれているのは、学園が創設された1919年から
2019年までの100年間に起きた5つの事件。
年に1回、学園の「王子」を選ぶというような女の花園独特の慣習に、
関東大震災、大戦、学園闘争、バブルなどの世相が
うまく取り込まれており、
読む者をぐいぐい引きつける。
5編のうち、ワタシは最後の「ハビトゥス&プラティーク」が好き。
共学になる直前、かつての部員たちが再登場する。
「烏丸紅子恋愛事件」の仕掛人アザミが、
このような形で出てくるとは。
演説も迫力満点だった。
女子高が舞台なのにタイトルはなぜ「青年のための〜」なのか。
登場人物の多くが、自分のことを
「ぼく」と呼ぶところから来ているのだろう。
読み終えてからは「青年」で全く違和感を感じなかった。
ずっぽりと桜庭ワールドに浸かってしまった。
というわけで、前作「赤朽葉家の伝説」に続いての傑作。
評価:★★★★★
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October 13, 2007

畠中恵の「まんまこと」を読んだ。
第137回直木賞候補作。
タイトルの「まんまこと」とは「真真事」と書き、
「ほんとうのこと」という意味。
主人公はお江戸神田の町名主、高橋宗右衛門の息子、麻之助で、
ちまたでは遊び人として評判。
しかし、時には名主代理として、
持ち込まれてきた騒動を解決しなければならない。
そんなとき力になってくれるのが幼馴染みの二人、
女泣かせの清十郎と、真面目一筋の吉五郎。
3人それぞれの特異なキャラクターを生かしながら、
町内で起きた事件に取り組む。
麻之助と清十郎の義母・お由有との意外な関係も、
読んでいくにつれ、次第に解き明かされていく。
短編最後の「静心なく」では、
切なくて胸がきゅんとなってしまった。
流れからして、当然、続編ありだろうね。
評価:★★★★☆
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October 03, 2007

道尾秀介の「ソロモンの犬」を読んだ。
主人公の秋内は大学生で、京也は大学の友人。
大学の友人京也と彼の恋人・ひろ子、
そして、その友人智佳はいつも4人で会っている。
主人公である大学生の秋内は、
ある日バイク便のバイトの途中、
仲良くしていた大学の教授の息子が、
交通事故に遭う場面に遭遇してしまう。
一緒に散歩していた愛犬が、突然道路を横断しようとして
引きずられて起きた死亡事故であった。
偶然にも、秋内の友人である京也と恋人・ひろ子、
その友人智佳の3人も事故の現場近くにいた。
痛ましい事故の経緯を調べていくと、
さまざまな疑問が浮かび上がってきた。
悲劇で始まった物語が、
京也が事故に関わりのある○○と男女関係があったことなど、
驚愕の事実が登場して急展開を見せる。
それから、最後に謎が解けるまではまったく飽きさせない。
伏線もたくさん張ってあって、確かにおもしろい。
ただ、犬の生態をトリックにしている点は、
犬に関心のないワタシとしては、つまらなかった。
タイトルと装丁も、どうもピンとこない。
失敗だったのではないか。
登場人物では、動物生態学者の間宮未知夫助教授が絶品。
探偵役も務めるあやしげなキャラは
またどこかで登場しそう。
評価:★★★
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September 28, 2007

祐光(すけみつ)正の「浅草色つき不良少年団」を読んだ。
第44回オール讀物推理小説新人賞受賞作。
大正末期から戦前の昭和、
大歓楽街であった浅草を舞台に、
不良少年団「浅草黄色団」に起こった出来事を描く連作短編集。
当時浅草には3つの不良少年団があった。
女装の麗人「冬瓜の百合子」率いる「紅色団」、
相当な悪の集まり「黒色団」、
そして似顔絵ジョージ率いる「黄色団」。
関東大震災や東京大空襲で街の姿が大きく変わる時代に
彼らはたくましく生きていた。
そして巻き込まれる数々の事件。
密室殺人事件、幽霊騒動、
あるいは瓶詰めにされた少女が消えてしまうというような、
まるで少年探偵団や明智小五郎が出てきそうな事件の
謎解きがされていく。
作品全体をノスタルジックな香りが包む。
トリックは大したことないが、
雰囲気に酔いながら一気に読み終えた。
書き手であり、漫画家の私が、
昭和の終わりに知り合った黄色団の頭目「似顔絵ジョージ」こと神名火譲二氏から、
昔話を聞き出すという構成も、本当にうまい。
続編もきっと出てきそう。
評価 ★★★★☆
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September 25, 2007

恩田陸の「木洩れ日に泳ぐ魚」を読んだ。
一組の男女による、たった一夜の物語。
別離を決めた高橋千浩と藤本千明は、
住み慣れたアパートの一室で最後の夜を迎える。
そして、二人で出掛けた旅行で「あの男」を殺したのは
今、目の前にいる相手ではないか、
お互いがそう思って腹の中を探り合いながら、
心理的な駆け引きを続けながら、
次第に事実が明らかになっていく・・・
密室での二人芝居に近いサイコサスペンス。
一人称で交互に語り合う構成は生々しく、
ぐいぐい引き込まれていった。
恩田陸の筆力に脱帽の一編。
ラストは賛否が分かれるところか。
ワタシは嫌いではないが。
装丁にもひとこと。
今年一番気に入ったデザイン。
こんなにかわいいイラストを使った表紙なのに
内容は全く違う、そんなギャップが大好き。
で、☆1つプラス。
評価:★★★★☆
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September 22, 2007

旅先で、志水辰夫の「行きずりの街」を読んだ。
持って本を早々に読み終えたため、
駅ビルの書店に飛び込み購入した1冊。
決め手は、帯に書かれた
「1991年度『このミステリーがすごい!』第1位」と、
「’90年日本冒険小説協会大賞受賞作」。
女生徒との交際がスキャンダルとなり、
都内の名門女子高を追放された元教師の波多野が主人公。
その後、田舎で塾講師をしていたが、
失踪した教え子を探すため上京してきた。
そこで、この事件に自分を追放した学校が関係しているという、
意外な事実を知った。
そして、元妻との再会。
次第に明らかになってくる真実、
波多野は巨大な黒幕との戦いを挑む・・・
一人の生徒のためにここまでやるの、っていうのが第一印象。
1991年の作品というのを差し引いても、
設定に無理がある。
文体は魅力的だが、感情移入できないのは、
こちらが歳をとったせいかもしれない。
しかしこの文庫本、売れているという。
帯のコピーの勝利か。
評価:★★
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September 21, 2007

保科昌彦の「生還者」を読んだ。
人里離れた旅館が台風による土砂崩れに遭い、
宿泊客が生き埋めになった。
多く犠牲者が出たが、4日後に7人が救出される。
うち1人はまもなく死亡するが、
残った6人は奇跡の生還者として注目を浴びる。
次第に事故の前の生活に戻りつつあったが、
半年後に一人、また一人と生還者が謎の死を遂げる。
生還者の一人で、この事故で恋人を亡くした主人公の沢井。
次は自分なのではと追いつめられ、
だんだん精神のバランスを崩していく。
山崩れの生々しい被害体験と、
生還者の死亡事件が続いて起きることで
精神的に追いつめられていき、
主人公と同じように、自分自身が壊れて行くような
疑似体験を味わうことができる。
これぞサイコサスペンス。
でもワタシは好みじゃない。
読後、何気なく本の表紙を見た。
黒一色かと思っていたら、何と人の顔が浮かび上がってきた。
本の内容以上に怖かった。
というわけで、★★★☆
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September 18, 2007

小路幸也の「東京公園」を読んだ。
主人公の志田圭司はカメラマン志望の大学生。
建築を学びながら「家族」をテーマに、
公園でくつろぐ親子の写真を撮っている。
ある日、初島から、妻・百合香と2歳の娘を
尾行しながら撮影してほしいと頼まれる。
圭司は初島から連絡があるたびに、
都内の公園巡りをする百合香親子を追っていく。
ファインダー越しに百合香を見ているうちに
次第に彼女にひかれていく圭司・・・
公園で親子の写真を撮るという行為自体、
違和感を感じてしまう。
赤の他人に撮られるのを良しとするとは思えないんだけど。
設定に無理があると思う。
それでも、圭司の同居人のヒロや幼なじみの富永、
バイト先のマスターの原木など魅力的な人物が揃っていて
さらさらと読めてしまった。
これって、キャロル・リード監督晩年の傑作映画で、
ミア・ファロー主演の「フォロー・ミー」じゃないと思っていたら、
最後のページに「To “Follow Me!”」とあった。
この作家流のオマージュなのだろう。
しかしいい映画だったよなあ、
エンディングで流れた“Follow follow・・・”
主題歌が鮮やかによみがえった。
というわけで、★★★☆
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September 06, 2007

「夜は短し歩けよ乙女」で直木賞候補になった
森見登美彦の新作「走れメロス」を読んだ。
日本の文豪の短篇をベースに、
現代風の短篇に書きかえた連作短編集。
どの作品も舞台は京都で、主に学生たちが主役となる。
最初の作品「山月記」で主役として登場する売れない作家、斎藤秀太郎が
ほかの作品でも狂言回し役として顔を出すところがなかなか愉快。
全体のテイストは、前作の「夜は短し歩けよ乙女」に近い。
ワタシ自身、学生生活を京都で送ったわけではないのに、
なぜか懐かしさを覚える。
学生どものバカバカしい活躍ぶりに
違和感を覚える人も少なくないだろう。
何しろ「メロス」が「桃色ブリーフ」をはくんだから。
しかしあえて、これぞ“森見ワールド”と言ってしまおう。
過去の作品「太陽」「きつね」「四畳半」にも
目を通しておきたくなった。
というわけで、★★★★☆
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September 05, 2007

吉田修一の 「悪人」 を読んだ。
福岡県と佐賀県の県境にある三瀬(みつせ)峠で、
石橋佳乃という若い女性が殺された。
犯人は長崎市郊外に住む土木作業員の清水祐一。
出会い系サイトで知り合い、殺害に至ったこの事件は、
感情の行き違いから生じた偶発的なものであった。
警察に追われるようになった祐一は、
これまた出会い系で知り合い付き合い出したばかりの
紳士服の量販店で働く馬込光代と逃避行を始める。
逃げ切れなくなり、車を捨てた2人は山中に隠れたのだが、
最後には祐一が逮捕されることになる・・・
ストーリーとしては単純だが、
これに大学生の二人や、被害者佳乃の職場の友達、
祐一の家族などが複雑に絡み合い、
リアリティのある群像劇となっている。
さてタイトルであるが、
この小説に特別の「悪人」は出て来ない。
どこにでもいそうな人物ばかりだ。
特に後半、逃避行する祐一と光代は、
こんな事件に巻き込まれなければ、
平々凡々な生活を送っていたのではないかと思う。
悪人とまでは言わないが、
「悪いやつ」がいるとすれば、被害者の佳乃や、
当初加害者と思われたノー天気な大学生の方が
それに近いのではないか。
ふとしたことから、だれもが悪人になりうる、
小説を読みながら、そんな危うさを感じた。
もうひとつ「愛」について。
逃避行を続ける二人、
出会う前は、将来への希望もなければ現在の充実感もない
さみしい毎日を送っていた。
そんな日常よりも、たとえ殺人を犯した後の逃避行であっても、
毎日が光り輝いていた。
警察に保護された光代が、交番から逃げ出し、
祐一の待っている山頂の灯台まで
いばらをかき分けながら必死になって戻ろうとする場面には
涙する読者も少なくないはず。
ところがこの二人の愛は、
逃亡という非日常的な状況だからこそ
成立したものではなかったろうか。
日常生活の中だけでは、
ここまで愛する心は育ち得なかったのでは。
つい饒舌になってしまった。
感想をうまくまとめ切れなかったが、
ちょっとやそっとじゃ語り尽くせない話題の本、
とにかくお薦めの1冊だ。
というわけで、★★★★★
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August 09, 2007

松井今朝子の直木賞受賞作「吉原手引草」を読んだ。
この作家の作品は初めて。
吉原で花魁(おいらん)の葛城が突然失踪した。
越後の縮問屋への身請け話も決まっていた、
絶頂のときに、彼女に何が起きたのか。
失踪の原因について、ある男が次々に
聞き込みをしていく形で物語は進む。
証言が重なっていくたびに、
少しずつ謎が解けていく。
そして最後に明かされる葛城失踪の原因とは・・・
探偵小説を読んでいるようなわくわくした気分で
一気に読み終えた。
手引草とは、その名のとおり
手ほどきをする書物という意味だろう。
引手茶屋のお内儀がまず、吉原の仕組みを説明してくれる。
そして、見世番、遣手婆、床回し、幇間(たいこもち)、
芸者、船宿の船頭、指きり屋、女衒(ぜげん)など、
吉原を構成する人たちが次々に登場し、
読者は吉原の全体像を理解することができる。
これであなたも吉原通、といったところか。
しみじみとした情感もたまらない魅力。
この作家の他の作品も読んでみたくなった。
というわけで、文句なく面白い作品。★★★★★
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August 07, 2007

佐藤正午、7年ぶりの長編「5」を読んだ。
タイトルは“ファイブ”ではなく“ご”と読ませる。
結婚して8年、倦怠期を迎えている中志郎と真智子夫婦。
夜の生活も途絶えていたが、
海外旅行先のバリである事が起きる。
志郎が、偶然居合わせたエレベーターの中で、
超能力を持った女性から、特殊な能力を受け渡される。
そして結婚当初の、妻を愛していた記憶や感覚が蘇った。
再び愛されるようになった真智子は
付き合っていた作家津田伸一との関係を清算しようとするが、
ひょんなことから志郎が津田と出会うことになる・・・
超能力、オカルト系は小説も映画も苦手なのだが、
この作品は別、最後まで興味深く読めた。
つぎつぎに登場するエピソードがどれも面白く、
しかも予想外の展開を見せるので、読者を飽きさせない。
ただ主人公の作家、津田が、
ワタシにとっては、あまりに嫌な、許せないやつ。
出会い系で知り合った名前も知らない女性や、自分のファンの女性と、
片っ端から関係を結ぶ。
それを何とも思わないのが、これまた頭にくる。
中志郎と真智子も煮え切らないというか、
何を考えているのか理解に苦しむ。
というように、登場するのは、
すべてと言っていいほど、嫌いな人物ばかり。
なのに、最後まで一気に読ませてしまう魅力を持ち合わせている。
ちょっと評価がしづらい作品である。
この作品のテーマとも言えるのが、
「かならず冷めるもののことを、スープと呼び、愛と呼ぶ」
という言葉で、何度も登場する。
確かに真ではあるが、
そんなふうには信じたくないのが心情。
ここまで言い切ってしまう潔さも、この作品の魅力かも。
というわけで、5段階の評価は★★★★
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July 12, 2007

デビュー作「鴨川ホルモー」の次は「鹿男あをによし」、
なんじゃい、それ!?
まったく意味不明なタイトル、
ユニークな万城目学の第二作を読んだ。
事情により、短期間だけ
奈良の女子高で教鞭をとることになった
主人公の「おれ」。
早速、担任のクラスで生徒たちからいじめにあう。
傷心の日々が続くなか、奈良公園で突然、鹿が話しかけてきた。
鹿は「おれ」が使命を果たさなければ、
この国は滅びてしまうという、と言うのだ・・・
前作もそうであったが、物語のテンポが良い。
そして伏線が至るところに張ってある緻密な構成も見事。
最後はウン、ウンと、納得して読み終えた。
オチも最高!
1作目を超えた大傑作。
というわけで、★★★★★
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July 07, 2007

本多孝好、ひさびさの書き下ろし、
「正義のミカタ〜I’m a loser〜 」を読んだ。
高校3年間、いじめられ続けてきた主人公の亮太、
大学に入学し初めて友達ができる。
トモイチはボクシングでインターハイ3連覇という
輝かしい成績を残している。
彼に誘われ、大学の「正義の味方研究部」に入部。
個性的な先輩たちとともに、
大学における正義の味方としての活動を始め、
大小のトラブル解決に取り組む。
そんな中二人は、
怪しげな同好会への「潜入捜査」を命じられる・・・
「真夜中の五分前」で直木賞候補になり、
主にミステリーや恋愛を描いてきた著者が、
まったく違うジャンルに挑戦した意欲作。
登場するキャラクターは面白いが、
後半、正義とは何かを語り合う場面など
ちょっとくどい。
最後まで、主人公には
感情移入することができなかった。
著者の次回作に期待。
というわけで、★★★
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June 22, 2007

津原泰水の「ブラバン」を読んだ。
場末の飲み屋を経営する他片が主人公。
30半ばを過ぎ、経営する店は赤字続き、
まったく冴えない人生が続いている。
他片は高校時代、吹奏楽部でコントラバスを弾きながら、
軽音楽部にも所属しバンドを組んでいたくらいの音楽好きであった。
ある日、彼の元に、あこがれの先輩で
トランペットを吹いていた桜井の結婚話が届いた。
そして彼女の披露宴での演奏を頼まれ、
高校時代のブラバンの再結成を画策する・・・
現在と、高校時代の回想が交錯しながら物語は進む。
とにかく登場人物が多くて、
巻頭の名簿と照らし合わせながら読んでいった。
一人一人の人物描写が浅くて、
印象に残る人物はわずか。
しかし、吹奏楽だけでなく
音楽全般に対する著者の知識と愛情は、
並々ならぬものがある。
40代の音楽好きには、読んでいる間じゅう、
わくわくしっ放しの、たまらない作品。
映画映画化したら、きっと楽しいだろうな。
というわけで、★★★★☆
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May 26, 2007

加納朋子の「モノレールねこ」を読んだ。
タイトルに引かれて手にした。
短編集でどの物語にもあり得ない想定が出てくる。
初めてこの作家を読んだが
ワタシには無理、ついていけない。
特に最後の「バルタン最期の日」、
バルタンという名のザリガニが主人公で、
水槽から一家を見つめるという奇抜な設定。
うーん、生理的に合わない、
ちょっと勘弁してほしい。
というわけで、★★
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May 22, 2007

奥田英朗は、新刊が出るたび迷わず購入する作家の一人。
帯によると今回のテーマは、
「ビター&スウィートな〈在宅〉小説」、
なんだそれ、というわけで「家日和」を読んだ。
「サニーデイ」「ここが青山」「家においでよ」
「グレープフルーツ・モンスター」「夫とカーテン」「妻と玄米御飯」の
6編からなる短編小説集。
家庭の中で起きた何でもない出来事を
軽妙なタッチで描いている。
秀作ぞろいだが、特に「家においでよ」がいい。
妻が家を出て行き一人暮らしが始まった。
落ち込むのでなく、がらんとしていた部屋を
自分の好みに変えていこうとする。
高額なオーディオも購入し、好きな本やCDに囲まれ、
うらやましがる男友達も巻き込んで、まさに男の城の完成。
男ならだれでも夢なんだよな、こういうことって。
ネットオークション、ロハスなどを
最新のネタを巧みに取り込みながら、
日常生活をユーモアたっぷりに描いた傑作短編集。
うまいぜ、奥田くん。
というわけで、評価は限りなく満点に近い★★★★☆
0,5点マイナスは、
「グレープフルーツ・モンスター」に
少々違和感を感じたから。
追伸
表紙は写真集「スモールプラネット」で有名な本城直季によるもので、
本の内容にぴったり。
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May 03, 2007

三浦しをんの「風が強く吹いている」を読んだ。
2007年本屋大賞で3位となった話題作。
主人公は、寛政大学4年生の清瀬灰二(ハイジ)。
偶然、入学したばかりの蔵原走(かける)と出会い、
同じ青竹荘に住むことになった。
このボロアパートの住人は、走を含め、寛政大の学生ばかり計10人、
ハイジはこの10人で箱根駅伝を目指すと宣言した。
素人集団をどうやって鍛え上げるのか、そして結果は・・・
まあ冷静に考えたらあり得ない話。
陸上関係者から見れば、そんな甘くないよ、っと
一蹴されかねない。
ところが読むにつれだんだん熱くなり、
物語に引き込まれていった。
最後は一緒に箱根を走っている、
あるいは並走しているかのように
大手町のゴールにたどり着いた。
箱根駅伝に出るぞと宣言してから、
猛烈な練習を始め、予選にのぞみ、本番へ、
2日間にわたる本番の経緯、レース中の10人それぞれのの思い、
それらをまともに書いたのでは、
佐藤多佳子「一瞬の風になれ」ではないが
3分冊くらいのボリュームになってもおかしくない。
厚いとはいえ1冊にまとめた著者の筆力、
三浦しをん、すごいね。
山口晃のイラストによる
全員が登場する表紙、1ページ目のアパートの立体裁断図など
ブックデザインも秀逸。
力強くて優しくて勇気を与えてくれる、極上のエンターテイメント、
おすすめです。
というわけで満点、★★★★★
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April 27, 2007

恒川光太郎の「雷の季節の終わりに」を読んだ。
地図にない町「穏」。
穏には四季のほかに雷季が存在し、
その季節にはよく人が消えていた。
賢也は姉を亡くし、同時に「風わいわい」という
物の怪に取り憑かれてしまう。
活発な少女・穂高との出会いもあり、
幸せな日々を過ごしていたが、
ある事件により、穏を出ることになる・・・
「夜市」に続くデビュー二作目。
独特の世界を持っている希有な作家だ。
幻想的で物語の構成も興味深かった、
余韻も悪くない。
しかし、前作が立派すぎたので、
ちょっと期待外れだったか。
というわけで、5段階評価は★★★☆
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April 26, 2007

千葉出張に持って行った桜庭一樹の「赤朽葉家の伝説」、
往復の新幹線の中で、一気に読み終えた。
鳥取県西部、日本海沿いの紅緑村。
製鉄と造船で大いに栄えたが、やがて衰退していく。
主人公は赤朽葉家の孫娘で、
祖母と母と続く3世代3人の人生を描く。
祖母の万葉は、山奥の“辺境の人”が村に置き去った子供。
ところが縁あって、赤朽葉家の御曹司と結婚することになる。
文盲だが、未来を見通す才能を持っている。
母の毛毬は猛女。
いわゆる不良で、中国地方のレディースを制覇するまでに至る。
そしてその体験をマンガにしたところ大ヒットし、売れっ子となる。
孫娘の瞳子は、短大卒業後、
一時は就職するもののすぐに退職、今はニート状態。
赤朽葉家一族の興亡の壮大な物語に、
それぞれの時代のリアルな社会描写を盛り込み、
ドラマチックで興味深い内容となっている。
冒頭に登場する"空を飛ぶ男"の謎が、
最後の最後に解き明かされる。
このエピソードが、作品を引き締めている。
というわけで、5段階評価は★★★★★
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March 23, 2007

森見登美彦の「夜は短し歩けよ乙女」を読んだ。
タイトルの語呂の良さと、装丁のイラストが気に入って手にした1冊
「キュートでポップな片想いストーリー」(出版社)とは、よくぞ言った。
愛すべきファンタジー恋愛小説。
主人公である先輩は、黒髪のかわいい後輩にぞっこん。
時にストーカーのごとく後をつけ回す。
お酒を求めて夜の木屋町、先斗町あたりを歩き回るうちに
彼女が知り合うのは、鯉の養殖の実業家や、
空中遊泳のできる大学生、
はたまた、3階建ての電車で夜の街に繰り出す老人というように、
実に個性的な人物ばかり。
初夏に始まった物語が、夏の古本市、秋の大学祭、
そしていつの間にか、風邪が猛威を振るう年の瀬と
季節が移り変わっていく。
春が近くなり、絵に描いたようなハッピーエンドが。
読後感も最高で、5段階評価は★★★★☆
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March 21, 2007

図書館で偶然見つけた1冊の写真集「こわれない風景」。
著者は、カナダの自然風景を追い続けるカメラマン、吉村和敏。
美しい写真と味わい深いエッセイに引き込まれ、一気に読み終えた。
初めて見た古い一軒家が、懐かしく感じる、
行ったことがないのに、また訪れたいと思わせる、
そんな彼の写真と文章に一目惚れした。
まるでロードムービーを見たかのように、
風景が今も脳裏を駆け巡っている。
これからも注目していきたいカメラマン。
というわけで、5段階評価は★★★★
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March 17, 2007

久しぶりのブックレビュー。
ちまたで話題になっている佐藤多佳子の青春小説
「一瞬の風になれ」を読んだ。
全3巻の長編だが、ろんぱり旅行の前後に一気読みした。
舞台は、神奈川県の春野台高校(通称「春高」)陸上部。
この部に入部した主人公の新二と、親友の連、
そして彼を取り巻く部員たちの、陸上に賭けた青春物語。
1年の春に入部してから、
400mリレーでインターハイ全国大会出場を果たすまでの
2年余りを描いている。
主役2人の魅力もさることながら、脇役の設定が絶妙。
Jリーグ入りしたサッカーの天才の兄、
いつも良き指導者として、先輩として新二たちを見守る三輪先生、
チームのムードメーカーである同級生の根岸、
良きライバル仙田、高梨・・・
それぞれの個性を見事に描き出している。
ネタばれになってしまうが、
インターハイの関東大会で全国大会出場を決めたところで
物語が終ってしまうところがうまい、
あとは読者の想像に任せている。
ワタシなら、全国大会で惜敗、
悔しさを胸に大学でも陸上を続け、とうとう学生の頂点に・・・
平凡かもしれないけど、こんなサクセスストーリーを書くだろうな。
というわけで、5段階評価は★★★★☆
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February 05, 2007

横山秀夫の「臨場」を読んだ。
県警の検死官・倉石義男、
破天荒な性格で、
上司に楯つきながらも部下の面倒見はよく、
信奉者も少なくない。
その倉石がかかわった事件の連作短編集。
どの作品もミステリーの要素が盛り込まれてはいるが
物語性が強く、短編小説としても読み応えがある。
特に印象的だったのは「餞」。
定年退職を間近にした刑事部長を主人公に、
女子大生扼殺事件や老婆の死亡事故をからめ、
刑事部長の過去をひも解いていく、
ドラマチックで叙情的な傑作。
ほかの7編もハズレがなく、
じっくりと味わって読みたい作品ばかりだ。
というわけで、5段階評価は★★★★☆
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January 27, 2007

奥田英朗の「ガール」がおもしろかったので
旧作の「マドンナ」を読んだ。
こちらは大手企業の40代管理職の男性を
主人公にした5つの短編集。
新しく課に配属された若い女のコに恋をしてしまう「マドンナ」、
出世街道を進む営業マンが総務に配属され
裏金づくりの現実を見てしまう「総務は女房」、
何でも合理主義の女性部長の下で働くことになり
ことあるごとに衝突する「ボス」などなど、
ワタシも含め、40代の同世代なら心当たりがありそうな話ばかり。
人間関係や人物像の描写が相変わらずうまい。
でもなあ、ちょっと違和感を感じる。
この小説に登場するような職場環境って
今はあんまりないと思うんだよね。
10年前ならともかく。
というわけで5段階評価は★★★
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January 22, 2007

打海文三の「一九七二年のレイニー・ラウ」を読んだ。
8つの恋愛短編集。
ただし、最初の「初恋について」と最後の「バラの記憶」は、
小説というより体験談で、
いわば、作品集のプロローグとエピローグ。
そして残りの6編を読むための、
指針のような役目を果たしている。
いずれの作品もつながりはなく独立している。
とてもていねいに描かれているが、
暗く深刻な恋愛ばかりで
いわゆる甘い恋愛小説とは随分趣が違う。
帯の「大人の恋愛小説」たるゆえんである。
飲んだツケを取り立てにきたヤクザの対応を
留守の夫に代わってする妻を描いた
「花におう日曜日」や、
片思いの彼が事故死したのに
関心のなさそうなふりをする娘と母が登場する
「満月の惨めで、かわいそうな」など、
実生活ではまず体験できないような稀な恋愛ばかり。
だからこそ、小説で取り上げる価値があるのだろう。
この作家の作品を読むのは初めてだが
ハードボイルドの作家として名が売れている。
近作の「裸者と裸者」「愚者と愚者」は
前から読みたいと思いながら、まだ手つかず。
早速読んでみようと思う。
というわけで、評価は★★★★☆
※今年から評価を厳しくした。
昨年は5つ星があまりに多すぎた。
基準として、星3つが普通の作品、
2以下はだめだめ、
逆に星5つは、年に1、2作あるかないかの傑作。
☆はおまけということにした。
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January 15, 2007

百田尚樹の「永遠の0(ゼロ)」を読んだ。
太平洋戦争末期、
零戦搭乗員(パイロット)の宮部久蔵は特攻で死んでいった。
その祖父のことを知ろうと、
佐伯慶子と健太郎は、戦友を訪ね歩いた。
最初の証言は「宮部は臆病者」だった。
妻子の写真を常に携帯し「生きて帰る」ことばかり考えている男。
危険な戦闘を避けて、必ず無傷で帰還する卑怯者。
しかし、何人かの話を聞いているうちに
祖父は天才的な飛行機乗りであるとともに、
命がけで仲間を守ろうとしていたことが明らかになる。
さらには、特攻志願を拒否するだけでなく、
部下にまで「絶対に死ぬな」と語っていたという。
なのに、なぜ祖父は特攻を志願したのか。
その死に隠された真実とは・・・
国や大切な家族を守るために戦った零戦搭乗員たちを通じて
「命」の重みを表現するとともに、
彼らの苦悩や心の中の思いを見事に描き切っている。
戦況悪化の根源である指揮官の判断ミス、
非人間的な戦闘機や兵器、
プライドやメンツに縛られ疲弊しきった軍組織、
語られるのは絶望ばかり。
しかしそんな中でも最前線で死力を尽くす兵士たち。
小説の後半部分は、涙なしでは読めなかった。
ミステリータッチではあるが、
まるでドキュメンタリー映画を見たような読後感。
戦争を知らない世代に対する著者のメッセージだと感じた。
最後の頁に記された30冊余りの参考文献、
著者の情熱と労苦に敬意を表したい。
5段階評価は、文句なしの★★★★★
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January 13, 2007

中山咲の「ヘンリエッタ」を読んだ。
昨年、第43回文藝賞を受賞。
著者はワタシと同じ県内の高校三年生ということで、期待も膨らんだ。
「ヘンリエッタ」とは家の名前。
この居心地のよい空間に、
主人公のまなみと2人の女性が共同生活を送っている。
まなみは引きこもりで、
親元から離れて暮らしている。
同居しているみーさんとあきえさんは、
どちらも普通に仕事をしているものの、
恋をするたび、相手にそっくりな魚を飼い始めたり、
発作的に三輪車を盗んできてしまったりと、
困った癖のある女性。
そしてヘンリエッタは
3人にとっての癒しの場所となっている。
文章は稚拙で、受賞はどうなかと思うが
出版社として欲しいものはやはり話題性なんだろうな。
「みずみずしい」という
手あかにまみれた褒め言葉も使えなくはない。
まだ若いし、地元出身でもあるので、
次回作に期待しようと思う。
というわけで、評価は★★★
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January 12, 2007

新年早々、嫌な本を読んだなという第一印象。
道尾秀介の本格ミステリー「向日葵の咲かない夏」。
首吊り自殺のリアルな描写や、
おじさんの少年嗜好とかって生理的にダメ。
ミステリーとしての巧さは買えるのだけれど・・・
物語は、主人公のミチオが、
同級生S君の首つり死体を発見したところから始まる。
その後、どこかに消えてしまうS君の死体、
ミチオの前に現れたS君の生まれ変わりの○○の謎、
続けて起きる連続動物虐殺事件の謎、S君の自殺(あるいは他殺?)の謎、、、
これらの謎をミチオと妹のミカ、そして生まれ変わりのS君の3人で解いてゆく。
最初のうちに感じる違和感が伏線となり、
終盤はどんでん返しの連続、あっと驚くラスト。
ジグソーパズルの最後のピースが
ぴったりとはまったときの快感。
ミステリーファンには高い評価を受けるであろうが、
ワタシは好みの作品ではない。
というわけで、評価は★★★
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December 31, 2006

今年最後に読んだのは乙一の「銃とチョコレート」。
「かつて子どもだったあなたと少年少女のために」と題した
講談社ミステリーランドシリーズの1冊。
その名のとおり子ども向けだが、
大人の鑑賞にも十分耐えうる作品。
リンツ少年の住んでいる国で
富豪の家から金貨や宝石が盗まれる事件が続発した。
現場に残されたカードから
怪盗ゴディバ【GODIVA】の仕業であることがわかる。
そこで、子どもたちのヒーロー探偵ロイズが、
ゴディバを逮捕するべく立ち上がる。
ある日リンツは、父の形見の聖書から古びた手書きの地図を見つけた。
ゴディバの事件の鍵を握る貴重な資料であった。
探偵ロイズと秘書のブラウニー、警視のガナッシュが
リンツに接近し、話は急展開する。
二転三転するストーリーは、
子どもでなくても。わくわくさせられる。
単なる少年向けの冒険小説と違うのは
善玉と悪玉がはっきりしないこと。
主人公のリンツは良い子だが
ヒーローにしては間抜けなところが多すぎる。
一方、一緒に財宝を探しに行くことになる
どうしようもない不良少年のドゥバイヨルは、
知恵があり推理力も持ち備えている、
さらには度胸も満点なのに、本当に嫌な奴。
著者は、遊び心もいっぱい。
例えば登場人物の名前。
前述のリンツ、ゴディバ、ロイズ、ブラウニー、ガナッシュ、
さらにはリンツの友人デメル、母メリー、隣に住むモロゾフ、
いやいやここまで凝るとは、お見事!
子ども向けということで
ひらがなが多いのは読みづらかったが、
ジュール・ヴェルヌの小説を
むさぼるように読んでいた40年前を思い出しながら
感慨深く読んだ。
というわけで、評価は★★★★★
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December 26, 2006

小路幸也の「東京バンドワゴン」を読んだ。
明治十八年創業の東京下町にある古本屋
「東京バンドワゴン」を舞台にした、
四世代家族、堀田家を取り巻く人情ドラマ。
しかし個性的な家族だ。
世帯主が勘一、この古本屋の三代目店主、
その一人息子が伝説のロッカー我南人、
我南人の長女で未婚の母・藍子、
同じく長男で店を手伝っている紺、
同じく次男、実は我南人の愛人の子・青、
紺の妻で元スチュワーデス・亜美、
そして、藍子の子・花陽、紺と亜美の子・研人。
さらに、物語の語り手が、勘一の妻サチ。
既に亡くなって、幽霊としての登場だ。
物語は春夏秋冬の4章からなり、
それぞれに近所の人たち、友達などが加わって、
ちょっと不思議な出来事が起きたり、
それに人情話が加わったりと、
ドタバタ的な展開がツボにはまった。
おもしろくて、少しほろっとして、
2時間ドラマを4本見たような気分になる。
昭和の時代のホームドラマへのオマージュであろうか。
今は亡き、久世光彦のドラマが大好きなワタシには
たまならい作品。
というわけで、評価は★★★★★
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December 21, 2006

万城目学の処女作「鴨川ホルモー」を読んだ。
何をするのかよく分からないサークル「京大青竜会」に入ったのは、
さだまさしを師と仰ぐ安倍と帰国子女の高村。
彼らを待ち受けていたのは、
立命館、龍谷、京都産業の4大学対抗による競技「ホルモー」だった。
ホルモーとはどんな競技なのか。
ネタばれになるので、ここでは書かない。
物語は、安倍、高村の2人を中心に、
青竜会内での人間模様を描いた青春小説。
おかしくて、ちょっぴりほろ苦くて、
いい味に仕上がっている。
最後に本性をあらわす楠木に、
ワタシは最初から目をつけていた。
めがねを取れば、きっとかわいいんだろうなと。
予想は当たった、オンナを見る目、やっぱりあるんだ。
深みはないけれど、
短距離を全力疾走したような爽快感がいい。
評価は★★★★★
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December 18, 2006

西加奈子の「きいろいゾウ」を読んだ。
動物や植物と話すことができるツマ(妻利愛子)と、
売れない小説家のムコ(無辜歩)の物語。
2人は駆け落ちして、ある田舎町に住んでいる。
そこには個性的なご近所さんが。
例えば、いつもズボンのチャック全開のアレチさん、
聡明だけれど登校拒否の小学生、大地くん、
あるいは、犬のカンユさんやチャボのコソクなど。
2人はお互いのことをあまり知らないし、知ろうとはしなかった。
しかし次第に、ツマが子どもの頃に1年間入院していたこととか、
ムコの背中には鳥のタトゥーがあることとか、
さらにはムコには昔恋人がいたこととかが
次第に分かってくる。
登場人物が魅力的だ。
主人公と前述のご近所さん、
さらには、幻の漫才コンビ「つよしよわし」、
ほんとうにうまく配されている。
特に、大地くんは健気でとってもいい。
9歳というのは、いかにもませ過ぎているが
まあご愛嬌か。
最後の一行、大きな文字で書き加えられた「必要なもの」、
これにはジンときてしまった。
何でもない日々の貴重さ、
前向きに生きることの大切さ、
そして、大好きな人とずっと一緒にいられることのうれしさ、
そんなことをしみじみと感じさせてくれる珠玉の作品。
評価は★★★★★
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December 10, 2006

中島京子の「TOUR1989」を読んだ。
この作家の作品は初めて。
実は、「漢方小説」の作家、中島たい子の
新作かと思って手にしたのだが、
1字違いの別人だった。
4つの短編集で、
いずれもバブル末期の1989年、
香港へのツアーで行方が分からなくなった青年をめぐる物語。
青年が片思いをしていた女性、ツアーに参加した男性、
ツアー添乗員、ツアーに関心を持つノンフィクションライターが
さまざまな形で青年と交錯するが、
15年の年月を経ており、なかなか真相は分からない。
明解なエンディングを期待していたが、
結局最後までつかみどころがなかった。
というわけで、評価は★★★
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December 07, 2006

大崎善生の「優しい子よ」を読んだ。
この本で、著者が美形女流棋士、高橋和の夫だということを知った。
しかも年齢差は19歳・・・ゆるせん。
気を取り直して、この作品は4つの短編集となっている。
最初と最後の2作は、
大崎夫婦自身のことを書いているいわば私小説。
2、3作目は名テレビプロデューサー萩元晴彦を
取り上げている。
4作品ともジャンルとしては、
小説というよりノンフィクションである。
表題作には参った。
涙が止まらないのだ。
涙で文字がにじんで、何度も読めなくなった。
不治の病と戦う少年と、女流棋士の妻との交流を描く。
なんでこんなベタな話にとは思っても、
これがノンフィクションの持つ力だろうか。
「テレビの虚構」「故郷」は、著者が萩元晴彦の逝去後、
取材を通して彼の生きてきた道を確かめる物語。
萩元が実に魅力的に描かれている。
「誕生」は、“優しい子”と友人萩元の死を経た著者と妻が、
新しい生命を授かる物語。
本の最後になって、やっと光が差してきた。
以上4作品、人の持つ「優しさ」と「強さ」をかみしめながら
じっくりと味わった。
誰が何と言おうと評価は★★★★★
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November 29, 2006

森絵都の「風に舞いあがるビニールシート」を読んだ。
すばらしい本に出会ったときの興奮は、
すぐにだれかに伝えられずにはいられない。
いわずと知れた第135回直木賞受賞作。
前作「いつかパラソルの下で」が期待はずれだったので
読むのがこんなに遅れてしまった、不覚だった。
6作品を収録した短編集。
「器を探して」は人気パティシエヒロミの秘書を務める弥生が主人公。
大好きなケーキの仕事と恋人の間に挟まれ、
どちらを選ぶべきか苦悩する。
「犬の散歩」は、捨て犬の里親探しボランティアをする恵利子が、
その資金源のためにスナックでアルバイトまでする。
「守護神」は、大学の夜間部に通う学生たちの物語。
フリーター裕介と、レポートの代筆をするニシナミユキの
二人の関係を描く。
「鐘の音」は、仏像修理を生業とする人たちの間に隠された、
〝過去の秘密〟の物語。
「ジェネレーションX」は、顧客のクレームへの謝罪に向かう車中での
20代の石津と、40を目前にした健一の物語。
最後にドラマが待ち受けている。
そして表題作の「風に舞いあがるビニールシート」。
国連難民高等弁務官事務所で働くエドと里佳夫婦。
難民救済の現場で使命感に駆られるエド、
一方、家族のぬくもりを求めようとする里佳。
起こるべくして起きた悲劇とその後の展開・・・
6作とも読みごたえ十分。
後の作品になるにつれ感動は増し表題作で頂点に達した。
「ジェネレーションX」と「風に舞いあがるビニールシート」は
何度も読み返したくなる傑作。
5段階評価は★★★★★
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November 24, 2006

伊坂幸太郎の「陽気なギャングの日常と襲撃」を読んだ。
シリーズの第2弾で、
1作目の「陽気なギャングが地球を回す」で活躍した
成瀬、響野、雪子、久遠という愉快な4人のギャングが再登場する。
相変わらず構成が巧み。
第1章は4人をそれぞれに配置した短編集で、
読むごとに話がリンクしていくのが爽快。
第2章からは、第1章をふまえて話がどんどん展開していく。
そして読み終えると全体がひとつの物語になっているという
いわばオムニバス形式。
登場人物の軽妙洒脱な会話と、物語の展開の面白さが
伊坂ワールドと呼ぶならば、
この作品は後者に少々不満が残る。
まあそれでも、娯楽小説と割り切ってしまえば
それなりに楽しい。
というわけで、満点という訳にはいかず★★★★
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November 18, 2006

今さらながら、浦沢直樹の「20世紀少年」に、はまってしまった。
これはすごい。
現在、12巻まで読了。
やっと、“ともだち”の正体が分かった。
でも、謎は深まるばかりだ。
これからどう展開するのか興味は尽きない。
随所に、60、70年代のロックミュージシャンや
そのアルバムがキーワードとして登場するのも魅力。
では続きを読むとするか。
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November 12, 2006


中山可穂の「ケッヘル」(上・下)を読んだ。
最初に書いてしまおう、5つ星★★★★★の満点評価。
今年一番の収穫となった。
一般の評価は必ずしも高くはないと思う。
ミステリーとしては荒さが目立つし、
真犯人もどうしてそうなるの、と首を傾げざるを得ない。
でもワタシは、読んでいる間ずっと至福の時を味わった。
モーツァルトなしでは生きていけない遠松鍵人と、
同性との愛から逃れて放浪していた木村伽椰が、
ドーバー海峡に面した港町のカフェテラスで出会う。
(始まりからして絶品)
この二人をめぐって、過去と現在が相互に語られつつ
物語は進んでいく。
しだいに明らかになる、壮絶で破壊的な愛。
殺人事件が起きてからはミステリータッチとなり
最後に意外な人物が犯人とわかる。
女性同士の性愛の描写が妖艶でかつ露骨、
この作家ならではの表現方法といえる。
誤解を承知で書くとすれば、
この描写に酔いしれてしまった。
そして何よりもこの作品には、
モーツァルトの名曲が散りばめられている。
曲名が出るたびに、CDを取り出して聴きたくなってしまった。
ちなみにケッヘルとは、
モーツァルトの作品を時系列的に配列した番号のことで、
K.000というように表記される。
K.1からK.626まであり、
K.626はモーツァルトの死によって未完に終わったレクイエムである。
この本、偶然、図書館で見つけて借りた本、
すぐに購入して再読するとともに、
手元に置いておきたいと思う。
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November 09, 2006

宮部みゆきの「名もなき毒」を読んだ。
彼女の長編を読むのはブレイブ・ストーリー以来だろうか。
散歩中の老人がコンビニで購入したウーロン茶を飲んで毒殺された。
首都圏で発生している無差別連続毒殺事件の4人目の犠牲者か。
財閥企業の社内報を編集する杉田三郎は
犠牲者の孫娘である女子高生と知り合うことから
この事件に巻き込まれる。
一方、杉田の職場では、アシスタントをしていたアルバイト女性を
ミスが多発するためにクビにしたことで、
彼女の執拗かつ病的なクレームが始まる。
職場や杉田に対する異常ともいえる嫌がらせは、次第に激しさが増し
ついには杉田の家庭までも巻き込むことになる。
主人公の杉田は、
女子高生の祖父を殺害した犯人を追う探偵役であり、
かつ、女クレーマーの生い立ちにある秘密をたどりながら
その悪意に襲われる犠牲者にもなるところがおもしろい。
しかし、お人好しで、何にでも首を突っ込む杉村三郎には、
ワタシはいらいらさせられっぱなし。
もちろんそれは著者の意図するところなのだろうが、
金に苦労はしてないだけあって嫌な奴ではある。
主人公が気に食わない人物であっても、
500ページ弱を一気に読ませてしまうのは、さすが宮部みゆき。
というわけで5段階評価は★★★★★
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November 05, 2006

奥田英朗の「ガール」を読んだ。
30代、独身、子なしの女性たちを取り上げた短編集。
30代半ばで管理職となり、年上の男性の部下を持ってしまった聖子。
シングルマザーとなり、3年ぶりに営業部に復帰した孝子。
つい、マンションを買おうと決めてしまったゆかり。
みんなバリバリのキャリアウーマンというより、
どことなくかわいいくて、愛嬌のある女性ばかり。
その胸の内を、著者は実にうまく描いている。
30女性の心の中って、
きっと、こうなんだろうなと納得することばかり。
おもしろくて、かつ、大変参考になった。
というわけで、5段階評価は★★★★★
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November 04, 2006

出張から帰ってきたら、Amazonから届いていたのが
「ちびっこ広告図案帳」。
とうとう買ってしまったのだ、この本を。
2カ月ほど前、ビレッジヴァンガードで見つけた。
ふだんのワタシなら即買ってしまうところだが、
定価を見て驚いた。
5040円!
塔レコードでは平気で1万、2万を使ってしまうが、
この本に5千円は高いと感じた。
で、そのときは帰ったのだが
それから、どうももやもやする。
欲しい、欲しい・・・
Amazonのクーポンが1,500円分あったので
これを使って買うことにした。
内容は、1965年から1969年に
雑誌に載った少年少女向けの広告が集められている。
チョコボールの「おもちゃのかんづめ」や、
グリコの「せっかちくん」と「おとぼけくん」とか当てたくて
キャラメルやチョコレート、たくさん買ったよなあ。
今井科学の「サンダーバードのひみつきち」
これも欲しくて買ってもらった。
う〜たまらな〜い、感涙、感涙。
というわけで50代前半から40代後半のおじさん、おばさんには
涙なしでは見られない1冊。
家宝にもなるよな。
評価なんてするつもりないけど、
付けるならもちろん★★★★★
実は「1970‐1974」の続編も発売中。
これは7,800円。
買ってしまうのだろうな、いつかはきっと。
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October 19, 2006

吉田修一の「初恋温泉」を読んだ。
熱海、青荷、祇園畑中、那須、阿蘇黒川の
実在する5つの温泉宿を舞台ににした連作短篇集。
登場する男女は、離婚寸前の夫婦、不倫のカップル、高校生同士とさまざま、
いかにもありそうな話ばかりで、
まるでノンフィクションを読んでいるような気分になった。
温泉好きの著者は、実際に宿泊して、
「この旅館ならどんなカップルが泊まりに来るだろう」と
想像を膨らませながら書いたという。
どの作品も結論が出ていない。
それを物足りないと感じる読者がいるかも。
じれったさの残るエンディングも悪くない。
5編のうちワタシのお気に入りは、
17歳の高校生カップルが黒川温泉に行く「純情温泉」は
ほろ苦さを感じさせる傑作だ。
というわけで、5段階評価は★★★★★
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October 16, 2006

東野圭吾の「片想い」を読んだ。
ジェンダーフリーと友情を描いた長編推理小説。
旅行に携行し、往復のバスの中で一気に読み終えた。
主人公の哲郎は大学時代アメフトのクォーターバック、
同じ部のマネージャー理沙子と結婚し、現在はスポーツライター。
かつてのアメフト部員は今もつながりがあり、
年に一度、同窓会で集まっている。
その帰り道に偶然、部のもう一人のマネージャー美月と再開した。
10年ぶりに会った美月から、ふたつのことを告白された。
ひとつは「性同一性障害」であること、
もうひとつは殺人を犯して追われていること。
突然の告白に驚いた哲郎と理沙子であったが、
美月のことを理解し、匿まうことになった。
この後、思わぬ展開をする。
さらには昔のチームメイトである中尾や
新聞記者の早田らもかかわってきて
人間模様が複雑に絡み合う。
人間が存在することの本質をテーマにした著者の手腕はお見事。
「性同一性障害という病気は存在しない」というせりふなど
非常に重く感じる言葉が幾度も登場する。
トランスジェンダーに無関心であったワタシは
この本からたくさんのものを得ることが出来た。
もちろんミステリーとしても一級品。
というわけで、5段階評価は★★★★★
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October 04, 2006

「本の雑誌」今年上半期ベストテンの第2位、
大崎梢の「配達あかずきん」を読んだ。
駅ビルの書店「成風堂」を舞台にした短編連作で5作品を収録。
書店のお仕事にまつわる事件を店員が解明するという
ミステリーの連作。
年間40、50冊読んでいると、
どうしても生理的に受け付けない、とか、
好きになれない本って何冊かある。
この本もそんな1冊。
ちまたでは評価が高いし、
確かに目の付けどころがうまいなとは思いながらも
ミステリーとしては中途半端で違和感を感じた。
でも書店の配達業務だとか、ディスプレイのこととか、
新しい発見はあった。
というわけで、5段階評価は★★★
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October 01, 2006

小川洋子の「ミーナの行進」を読んだ。
主人公は中学1年生の朋子、
家庭の事情で1年間、芦屋のおばの家に預けられることになった。
もの静かなおばさん、とてもハンサムなおじさん、
ドイツ人のローザおばあさん、喘息の従妹のミーナ、
さらにはお手伝いの米田さん、庭師、
はたまた、コビトカバのポチ子、など、
個性的で魅力的な人たちに囲まれて過ごした日々を描いている。
おとぎ話のように美しく、
しかし、なぜか懐かしくて、暖かくて
じっくりと時間を掛けて読んだ。
言葉にならない・・・ひとこと、傑作です。
というわけで、5段階評価は★★★★★
P.S ちりばめられた寺田順三の挿絵もすばらしい
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September 19, 2006

東野圭吾の直木賞受賞第1作「赤い指」を読んだ。
主人公である会社員の前原昭夫、
妻と中学3年の息子、そして実母と暮らしていた。
以前から妻と母の関係は悪かったのだが
同居後は母が認知症を発症し、
甘やかされて育った息子は引きこもりとなるなど、
家庭は崩壊寸前。
そんなとき、直己が自宅で幼女を絞殺してしまう。
追いつめられた状況のなかで、家族はどんな決断を下したのか・・・
一方、この事件を捜査することになった
警視庁捜査一課の新米刑事、松宮脩平と
練馬署の刑事、加賀恭一郎。
二人は偶然にも従兄弟同士で、
恭一郎の父、隆正は末期ガンで余命いくばくもない。
加賀親子の関係がぎくしゃくしているのを見かねて、
脩平が隆正を見舞いを続ける。
叔父と従兄弟の間に何があったのだろうか・・・
家庭を顧みない夫、嫁と姑の対立、認知症の介護、閉じこもりの少年、
さまざまな社会問題を取り込んだこの小説。
ねたばれとなるので詳しくは述べないが、
認知症の前原の母や、
末期ガンの加賀の父の言動は、ちょっと腑に落ちない。
そして、ミステリーとしては甘い部分が多いが、
それにもまして、読者を引きつける魅力を持った作品。
最後にはいつもの泣かせどころがある。
この著者ならではのストーリーテリングに満足。
というわけで5段階評価は★★★★★
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September 17, 2006

石田衣良の「眠れぬ真珠」を読んだ。
主人公の咲世子は45歳の版画家で、
画商の三宅とは長年愛人関係にある。
ふとしたきっかけで28歳の素樹と出会い恋に落ちる。
一方、三宅のもう1人の愛人が28歳のキュレーター亜由美、
三宅だけでなく咲世子のストーカーにもなり、
複雑な四角関係で物語は進む。
いかにもありそうな話で苦笑、
でも主人公の更年期障害や、オヤジ三宅の心理は
実に良く描かれている。
銀座のママ・マチエ、素樹のかつての恋人で女優のノア、
ノアの兄で素樹の親友、清太郎と、
脇役もそろっていて、まるで映画かドラマを見ているよう。
いや今後、映像化は間違いないと思う。
咲世子役はだれだろう、
イメージとしては、版画家・山本容子そのまんまなんだけど。
小説には、映画「シェルブールの雨傘」や「ダンサー・イン・ザ・ダーク」、
さらには80年代音楽が、この作家らしく巧みに使われている。
映像化に際しては、そのまま使ってほしいものだ。
というわけで5段階評価は★★★
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September 07, 2006

恩田陸の「チョコレートコスモス」を読んだ。
その昔、演劇少年だったワタシは、
冒頭から引き込まれ、一気読み。
最後の1行まで、ぞくぞく感は止まなかった。
学生の劇団に入団した芝居経験のまったくない佐々木飛鳥、
しかし持って生まれた天才的な演技力で注目を浴びる。
一方、幼いころから舞台に立っている有名女優の東響子、
若いながらも演技力はベテランの域。
伝説的なプロデューサーが芝居を手掛けるというので
オーディションが行われることになった。
大物が顔を揃えるなか、
飛鳥もオーディションに呼ばれ最終選考まで残る。
一方の響子は、オーディションに出たかったのに
声も掛けてもらえなかった・・・
著者の筆力は相当なもの。
まるで観客席から舞台を見ているかのような、
臨場感あふれる表現。
脱帽である。
題名が秀逸。
エンディングで、2人芝居に出演する役者が決まり、
「チョコレートコスモス」とは、
その芝居の台本であることが分かる。
脚本家はどんな本を書いたのだろうか、
そして伝説的なプロデューサーはどんな演出を見せてくれるのか。
期待を持たせたところでエンディングを迎える。
続編を待ちたい。
というわけで5段階評価は、★★★★★
演劇ファンは必読書。
ところでこの小説、
マンガ「ガラスの仮面」へのオマージュという。
ワタシはこのマンガを知らなかったが
予備知識があれば、さらに楽しめるのでは。
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August 31, 2006

6月に購入し書棚に積んだままになっていた
二ノ宮知子の「のだめカンタービレ15巻」を読んだ。
このマンガに、はまった当初ほどではないが、
面白さは相変わらず。
今秋のドラマ化もちょっと気になるところだ。
15巻の限定版には、何と
マングースのぬいぐるみが付いていた。
お腹を押すと「ギャボッ」と鳴く機能があって、
なかなか楽しめる。
もっとも「ギャボッ」とは聞き取れない。
長女が、欲しいと持っていったが、
すぐに飽きて、今はテーブルの上にぽいと
置きっ放しになっていた。
チェーンはついているものの、
ちょっと大き過ぎて(15センチくらい)
かばんにも携帯にも、付けるのは恥ずかしい。
ところで、このぬいぐるみは完全限定、
事前予約でのみ手に入るということだった。
プレミアが付くと思っていたが、
ヤフオクを見るとそれほどでもない。
あまり愛着も持てないし、
ちゅうぶらりんで、今のままでは、ちょっとかわいそう・・・
というわけでマンガの5段階評価は、もちろん★★★★★
【今日の歩数】8,994歩
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August 29, 2006

海堂尊のデビュー作「チーム・バチスタの栄光」を読んだ。
第4回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞している。
米国帰りの外科医桐生が率いるチーム・バチスタ。
バチスタと呼ばれる心臓外科の手術を専門に手掛け
その成功率は100パーセントを誇るエリート集団だったが、
立て続けに失敗する。
術死は偶然、医療事故、あるいは故意によるものなのか、
神経内科の田口医師が指名され、
内部監査に乗り出してゆく。
聞き取り調査をするうちに
チーム・バチスタの裏側が見えてくる・・・
ミステリーとしては謎解きの部分が平凡だが、
作品全体としてはよくまとまっている。
とても処女作とは思えない出来である。
チーム・バチスタの面々や
その他の登場人物にインパクトがある、っていうか
途中から登場する白鳥は、あまりに濃〜いキャラで
ワタシは拒否反応が出た。
病院や手術の現場のリアリティは、
さすが現役の医師だけある。
血を見るのが嫌いで
医学部をあきらめたワタシ(ウソ)にとっては
克明な描写は心臓ばくばくもんであった。
というわけで、5段階評価は★★★★
【今日の歩数】3,712歩
【昨日の歩数】6,023歩
【一昨日の歩数】4,234歩
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August 27, 2006

川上弘美の短編集「ざらざら」を読んだ。
偶然、図書館の新刊コーナーで手にしたのだが
これが思いもよらぬ大傑作。
“珠玉の”とは、この作品のためにあると言い切ってしまおう。
片思い、不倫、熱愛、失恋など、
女性のさまざまな恋愛模様を描いた23の短編集。
独特のふわふわ感というか、ほんわかとさせられる文体だが
実は1編1編が濃厚な恋愛小説で、
ワタシは十分に堪能させてもらった。
大好きな中林さんへの思いを綴る「コーヒーメーカー」
“あいたいよ。あいたいよ。二回、言ってみる。
それからもう一回。あいたいよ”
せつない・・・
ほかにも、黒田課長とのフリンを描いた「びんちょうまぐろ」、
旅先での大学生との短いながらも濃厚な恋「同行二人」など、
味わい深い作品がずらりと揃う。
一気読みした後、また1編ずつじっくり味わった。
この夏一番の収穫。
というわけで、5段階評価は★★★★★
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August 25, 2006

伊坂幸太郎の「陽気なギャングが地球を回す」を読んだ。
嘘を見抜く才能を持つ公務員の成瀬、スリの名人の若い久遠、
演説の達人である響野、そして秒単位の体内時計を持つ雪子、
この4 人組は一度も失敗したことのない、百発百中の銀行強盗団。
ところが4千万円を奪って逃走中に偶然、
現金輸送車強奪犯のグループと鉢合わせになり、
車を現金ごと奪われてしまった。
何とか現金を取り戻そうと画策する4人・・・
魅力あるキャラクター、テンポのよい洒落たストーリーで、
伊坂作品としては、深読みする必要がなく
エンターテイメントとして気軽に楽しめた。
あまりに出来すぎているのと、
こじんまりとまとまってしまったために、
ふだんから毒のある伊坂作品を読んでいる読者には
少々物足りないかもしれない。
続編が先日発売になった。
「陽気なギャングの日常と襲撃 」
これからきっとシリーズ化していくに違いない。
そう言い切れるくらい
4人のキャラがうまく設定してある。
というわけで、5段階評価は★★★★
【今日の歩数】9,117歩
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August 20, 2006

ロングセラーになっている
リリー・フランキー「東京タワー」を
今さらながら読んだ。
著者の自伝的小説。
3歳のときにオカンとオトンが別居、
それ以降、転居を繰り返しながらのオカンとの二人暮らし。
高校入学とともに親元を離れ、大学は東京へ。
大学卒業後、自堕落な生活を送っていたが
次第に仕事にも恵まれ安定してきたところで、
オカンを東京に呼び寄せ、15年ぶりに2人での生活を始める。
そしてオカンとの別れの日が来る。
東京タワーの見える場所で・・・
ユーモアあふれる文体で笑わせてくれる。
泣ける場面も少なくない。
オカンが著者の大学の卒業証書を出して言う。
「これが、あたしの全財産」には感涙した。
ワタシも4年間東京の大学に行き、
ずいぶん父親のすねをかじった。
故郷に帰り就職、さあ親孝行でもと思っていたところで
急逝した父の姿がオカンに重なった。
ただ気になるのは著者と母親との関係、
いわゆるマザコンそのものではないか。
あまりにもねっとりとして、ワタシは気持ちが悪かった。
著者はあるインタビューで、男はみなマザコンだ、
と決めつけていたが、それは断じて間違いである。
というわけで、5段階評価は★★★★
【今日の歩数】0歩(歩数計を持ち歩くの忘れた)
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August 17, 2006

久しぶりの宮本輝は「にぎやかな天地」、
期待していただけに物語の展開には不満が残った。
「豪華限定本」を手がけるフリーの編集者が主人公。
老紳士からの依頼で「発酵食品の本」を編集する過程を縦糸とするならば、
主人公やその他の登場人物の親子関係、人間関係が横糸で、
タペストリーのようにていねいに織られていく。
好色な料理評論家など魅力的な人物も登場するが
こと恋愛に関しては、主人公が歯がゆくてならなかった。
いかにも出来すぎている物語もマイナス要因か。
宮本輝の次回作に期待。
というわけで、5段階評価は★★★★
【今日の歩数】3,149歩
【昨日の歩数】4,315歩
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August 15, 2006

香納諒一の「贄の夜会」を読んだ。
香納作品は初めて。
「犯罪被害者家族の集い」に参加した女性2人が、
帰り道で何者かに殺害される。
一人は女性ハープ奏者で両手首を切断、
もう一人はその知人女性、
こちらは、頭を石段に叩きつけられているという
猟奇的な殺人事件。
事件を担当する警視庁の大河内の周りには、
被害者の夫、集いに関わる弁護士など
怪しい人物が次々に登場し、
事件は複雑な構図に・・・
猟奇殺人あり、警察内部告発あり、
ハードボイルドあり、
さまざまな要素がてんこ盛りの社会派ミステリー。
600ページ近い厚さで読み応えも十分。
最後の最後までハラハラ、ドキドキ、
読後感は、とってもおもしろかった!
けど、登場人物が多く人間関係も複雑で、
焦点が散ってしまったという印象はぬぐい切れない。
というわけで、5段階評価は★★★★
【今日の歩数】5,537歩
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August 14, 2006

いしいしんじの「雪屋のロッスさん」を読んだ。
不思議な魅力の短編小説集。
大人のためのおとぎ話、あるいはショートショートだろうか。
短いものでは見開き2ページにも満たない短編が
30編、収められている。
どれも何かの仕事を持っている人や動物、モノなどが主人公。
何でもないようなストーリーのなかに、
人生の悲哀を感じる場面が出てくる。
ワタシが一番好きなのは「風呂屋の島田夫妻」、
うーん、見事な短編、
じわっとこみ上げてくるものがあった。
装丁は今年一番かも。
濁点や点が「・」となっている、タイトルの独特な活字、
シンプルで清楚な表紙、
肌触りのよい紙質、
手元に置いておくだけでうれしくなる、
あるいは癒される本。
というわけで、5段階評価は★★★★
【今日の歩数】4,795歩
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July 26, 2006

横山秀夫の「震度0」を読んだ。
昨年の話題作だが、某ネット書評でこき下ろしてあったので
つい、手に取るのが遅くなった。
もっと早く読めばよかったと後悔するくらい
おもしろい作品だった。
阪神大震災が起きた日、
N県警も大きく揺れた。
死傷者数千人という大災害とたった一人の内部の人間の失踪、
比較するのもおかしなことだが、
警察組織のなかでは、大災害に匹敵するくらい
幹部に動揺が広がる。
保身しか考えない幹部たち、脳天気な妻たちを
痛烈な批判を込めて描いている。
ほとんど県警本部と警察官舎内で事が運ぶ長編小説だが、
圧倒的な緊張感とスリルで一気に読ませる。
最後に意外な真相が明らかになり、ほっとさせられる。
鮮やかなエンディングだ。
警察の実態に迫った、著者渾身の一作。
ということで、5段階評価は★★★★★
【今日の歩数】7,231歩
【昨日の歩数】4,250歩
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