海炭市叙景/佐藤泰志
佐藤泰志の「海炭市叙景(かいたんしじょけい)」を読んだ。
第一章9編と、第二章9編からなる。
それぞれ季節は冬と春を描いており、
夏と秋の物語が続くはずだった。
しかし著者は1990年、41歳で自らの命を絶ち、
未完となってしまった。
舞台の海炭市は、著者の故郷、函館がモデル。
さまざまな職業や立場の人たちが登場する18の短編が
ゆるやかにつながり、
しだいに海炭市のイメージが浮かび上ってくる。
冒頭の1編「まだ若い廃墟」に登場するのは、
失業して正月を迎えた若い兄妹。
早くに両親を亡くし寄り添うように生きてきた二人が
初日の出を見るため
ありったけのお金2600円をかき集めて。
ロープウェイで山を上った。
ところが先に下った妹を残して
どこかに消えてしまう兄・・・
あまりに暗く、謎めいたエピソードから
短編集は始まる。
海炭市では炭鉱が廃止され、造船所の首切りも始まった。
街全体に閉塞感が漂っている。
全体に暗いトーンであるにもかかわらず
不思議なくらい暖かみを感じた。
けなげに生きる人々の丹念な心理描写に心を打たれた。
北海道出身の熊切和嘉監督により映画化され
今秋から全国で公開中。
近くで上映されるならぜひ見てみたい。
出演は加瀬亮、谷村美月、小林薫ら。
★★★★★
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