骸骨ビルの庭(上・下)/宮本輝
宮本輝の「骸骨ビルの庭」(上下巻)を読んだ。
八木沢省三郎は家電メーカーを早 期退職し、
不動産管理会社に再就職する。
大阪の十三に建つ通称「骸骨ビル」から
住民を立ち退かせることが、彼に与えられた職務。
骸骨ビルの住民は戦争孤児たち11人。
ビル所有者の阿部轍正と茂木泰造が親代わりとなり
戦後の混乱期を生き延びてきた。
ところが阿部が、孤児の一人桐田夏美から
子ども時代の性的暴行で訴えられ非業の死を遂げる。
茂木たちは、阿部の名誉が回復すれば
ビルを立ち退くと言うのだが・・・
アパートの住人は、それぞれに個性的だが
どこにでもいそうな普通の人たちばかり。
しかし精緻に描かれた彼らの人生は、
それぞれが1本の短編小説になるくらい魅力的だ。
さらには、ミステリータッチで話が進むこともあって、
上下巻の長編を、長いと感じることはなかった。
中心人物である阿部はすでに死亡しており、
住人の話の中にしか出てこないが、その存在感は絶大。
阿倍の思想や行動から、
人間の強さや弱さ、愛の苦しみや悩み、
生きることの意味などを考えさせてくれる、
ちょっとベタな表現だけど、そんな作品。
ただ一点、ダッチワイフは余分だったと思う。
これは文庫化したときに削除してほしい。
★★★★
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