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February 28, 2010

WILL/本多孝好

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本多孝好の「WILL」を読んだ。

若くして両親を亡くし、葬儀屋を継いだ森野。
寂れた商店街で、ベテランと新人の2人の従業員と
細々と店を続けている。
そんな彼女のもとに
葬儀をあげた家族らが
さまざまな話を持ち込む。
ミステリータッチで描く連作短編集。

読み始めて、何か思い当たる節があるかと思ったら
以前に読んだ「MOMENT」に登場した
神田と森野のその後が描かれている。
森野は両親の跡を継ぎ、神田は渡米している。

「MOMENT」でも違和感があったが、
今回も若い女性の葬儀屋を継ぐというのが、
どうしても腑に落ちないというか非現実的に思えて
感情移入できなかった。

ただ、ラスト近くで、ほろりとさせるのは
この著者のうまいところ。
だからこそ、新作が出るとつい手に取ってしまう。

次作に期待。

★★★

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February 25, 2010

ジョーカー・ゲーム/柳 広司

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柳広司の「ジョーカー・ゲーム」を読んだ。

かつて優秀なスパイであった結城中佐が
中心となってスパイ養成学校「D機関」が設立された。
選抜された訓練生は、語学や学問はもちろん、
爆薬の扱い方、鍵の開け方、変装術など
さまざまな訓練を受け、優秀なスパイへと成長、
次々と世界に出て活躍していく・・・。

D機関から巣立っていった
スパイたちをめぐる連作短編集。
ミステリーとしては物足りないかもしれないが、
純粋にエンターテインメントとして考えれば
スリリングで十分に楽しめる。

続編となる「ダブル・ジョーカー」も
すでに発売され高い評価を受けている。
ぜひ読んでみたい。

★★★★★

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February 14, 2010

千日紅の恋人/帚木蓬生

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帚木蓬生の「千日紅の恋人」を読んだ。

お父さんの遺してくれた古いアパート
「扇荘」の大家をしながら
福祉施設に勤めている時子。
30代で死別、離婚と2回別離を経験し、
今は一人暮らし。
母とは別居だが、近くに住んでいるため、
一緒にカラオケ教室に行くなど、
身の周りの世話をしている。

このような生活の中で、新たに男性と出会う可能性は低く
バツ2という負い目もあって、起伏のない毎日を送っている。
ところがある日アパートに
スーパーの従業員、有馬さんが入居してきた。
独身で若い彼に、時子はひかれはじめる・・・

主人公の時子さん、
冷たそうな中年女性で
最初は魅力を感じなかったが、
有馬さんが登場し、次第に心を開くようになってからは
時子さん、どうか幸せになってと
祈らずにはいられなくなった。

sexシーンが登場するわけでもなく、
落ち着いた大人のラブストーリー。
ハッピーエンドも心地よい。

★★★★

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February 12, 2010

廃墟に乞う/佐々木譲

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佐々木譲の「廃墟に乞う」を読んだ。
第142回直木賞受賞作品。

仙道は北海道警の捜査一課に所属する警察官。
かつて担当した事件で2人の死者を出したことが原因で
精神的に病んでしまう。
現在は休職して療養中だが、
刑事としての腕の確かさを買われ、
今までにかかわってきた人たちから
さまざまな事件の相談が寄せられる。
仙道は刑事の役職のままプライベートで動き、
解決をしていく。
北海道の各地で起こったそんな事件の顛末が
6編の連作で綴られている。

単なる警察小説に終わらず、
さびれていく炭鉱の町、
大量の外国人が移り住んできたリゾートの村など、
現在の北海道の社会的問題を
リアルに描き出しているのはさすが。
しかし、重厚さとドラマ性では
三代の警察官を描き直木賞候補になった
長編の「警官の血」には及ばない。

★★★★

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February 10, 2010

アバター(J.キャメロン監督)

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ジェームス・キャメロン監督の「アバター」(3D)を見た。
本年度のアカデミー賞9部門にノミネート。

戦場で足を負傷し下半身不随となった
海兵隊員のジェイク(サム・ワーシントン)。
事故死した兄の代わりに
人造の肉体を操る「アバター」計画に参画することになった。
これが成功すれば新しい足を手に入れることができる。
アバターで惑星パンドラに侵入、
原住民「ナヴィ」と交流することで
彼らの秘密を探る任務を命ぜられた・・・

予告編を見る限り、気味が悪くて生理的に受け付けないと思っていたが、
これだけ話題になると見ないわけにはいかない。
で感想は・・・最初は違和感あったけど、だんだん慣れていった。
しかし、TOHOシネマズの3Dメガネは意外に重くて
私の場合眼鏡の上に掛けたために、
途中で耳が痛くなってきた。

ストーリーは簡単で、ひとことで言うなら
惑星パンドラの先住民たちと地球人の戦い。
アメリカ帝国主義の批判だとか、いろいろ見方はあるが、
ここは純粋に、圧倒的な映像美と監督の世界観を堪能すべき。

★★★★

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February 09, 2010

新参者/東野圭吾

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東野圭吾の「新参者」を読んだ。
加賀恭一郎シリーズの第8作。

東京の昔の面影を残す人形町が舞台。
ある日、ひとり暮らしの40代の女性の絞殺死体が発見される。
日本橋署に着任したばかりの加賀恭一郎刑事がその犯人を追う・・・。

「煎餅屋の娘」「料亭の小僧」など9章からなる連作。
それぞれに加賀刑事が登場する短編集かと思ったが、
人形町界隈の古い小さなお店で働く人々にスポットを当てながら、
殺人事件を巡る謎を徐々に解明していくという構成の長編小説。
ミステリーだが、
何でもない日常生活の中からも
下町の人情味や家族の絆に触れるような不思議な味わいがある。

殺人犯を追っていくというシリアスな内容にもかかわらず、
ゆったりとしたペースは最後まで変らない。
今までになかった新鮮な感覚に、思わずうなってしまった。

★★★★★

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February 08, 2010

ゴールデンスランバー(中村義洋監督)

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中村義洋監督の「ゴールデンスランバー」を見てきた。
原作は伊坂幸太郎の長編小説。

仙台で金田首相の凱旋パレードが行われていた。
突然、ラジコンヘリ爆弾により首相が暗殺される。

そのころ、宅配便の運転手をしている青柳雅春 (堺雅人)は、
大学時代の友人森田森吾(吉岡秀隆)と再会していた。
「首相暗殺犯に仕立てられるぞ」と警告する森田。
ところが突然警官が現れ、森田は殺害される。
何とかその場から逃げ延びた青柳だが、
犯人に仕立て上げられていく。

仙台一帯に警戒網が敷かれる中、
元恋人の樋口晴子(竹内結子)や
大学の後輩小野一夫 (劇団ひとり)らの助けで
逃げ回っていたが
警察庁の佐々木一太郎(香川照之)に追い詰められていく・・・。

全編テンポ良く進み、
2時間以上、まったく飽きさせない。
堺雅人をはじめとする役者陣が立派。
特に大学の友人役の吉岡秀隆、劇団ひとり、竹内結子は
役柄に馴染んでいた。
怪しげな警察官の香川照之、通り魔の濱田岳もいい。
さらには、主人公の父親役、伊東四朗は
一番の存在感を見せてくれた。

ただ、原作が余りにも素晴らし過ぎるため、
それを超えたかというと、
残念ながら・・と答えざるを得ない。
傑作小説を原作に持つ映画の宿命でもある。

タイトルはThe Beatlesのアルバム“Abbey Road”から。
エンディングを飾る傑作メドレーの1曲。
映画では斎藤和義が歌っている。
ポール・マッカートニーが来日コンサートで
この曲を歌ってくれたときのことを思い出した。
まさか生で聴けるとは・・・
思わず涙が落ちた。

★★★★☆

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February 04, 2010

閉鎖病棟/帚木蓬生

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帚木蓬生の「閉鎖病棟」を読んだ。
95年の山本周五郎賞受賞作品。

舞台は精神科の病棟。
重い過去を引きずっていたり、
世間や家族からも遠ざけられていたり、
それでも、一日一日を明るく生きようと
努力している患者たち。

秀丸さんは、かっとなって4人の家族を殺害、
死刑判決を受け、刑が執行されたが生き返った。
チュウさんは精神分裂症で、
危うく父親の首を絞めて殺しそうになった。
カメラ好きの昭八さんは、精神薄弱で言葉がしゃべれない。
島崎さんは女子中学生でみんなのマドンナ的存在。
登校拒否でカウンセリングのため通院している。

そんな病院である日、殺人事件が起こる・・・

中学生の中絶から話が始まり、
舞台は精神病棟に移る。
何という暗い話なんだろうと先行き不安になった。
ところが病棟での患者たちの暮らしぶりは
笑いあり、涙あり、怒りありと、
私たちの生活と何ら変わることはない。
その心の純粋さや誠実さは
われわれ以上ではないかと思う。

著者、ちなみに「ははきぎほうせい」と読む、は精神科医、
そのため表現にはリアリティがある。
しかし死や殺人があまりに軽く扱われている点については、
非常に不満を持った。

★★★★

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