W/F ダブルファンタジー/村山由佳
村山由佳の「W/F ダブル・ファンタジー」を読んだ。
主人公は脚本家の奈津。
長年の仕事のパートナーであり、夫でもある省吾と田舎で暮らしている。
夫の支配的な態度に萎縮していた奈津は、
敬愛する演出家とのメールのやり取りとその後の情事を機に、
夫から離れ東京で独り暮らしを始める。
彼女を通過していく男たち。
我慢できずに呼んでしまった出張ホスト、
学生時代のサークルの先輩で雑誌の編集者岩井、
岩井から急かされて一夜を共にした精神科医の僧侶、
将来は脚本家を目指す若い役者。
彼らとの付き合いを通して
奈津は次第に自らの女としての人生に目覚めていく・・・
性描写が生々しい。
一歩間違えば安っぽい官能小説になりかねないテーマだが、
男女の微妙な心理描写は、
はらはらしながらも共感を覚える場面が少なくなかった。
そしてラストの何とも言えない寂りょう感、孤独感、
胸に迫るものがあった。
不思議なタイトルの意味は、
最後まで分からなかった。
その後ネットで読んだ文芸評論家、池上冬樹との対談で
著者が種明かしをしている。
引用すると・・・
『ダブル・ファンタジー』だけだとファンタジー小説みたいな
感じになるなと思ったのです。なにか印象的な、ひと目で頭に
パンと入るような感じがほしいな、と思って考えつきました。
「W」をウーマン(WOMAN)、「F」をフィーメール
(FEMALE)という、ダブルミーニングに見る人もいるかもし
れないし、あるいは単に記号に見る人もいるかもしれない、と
いうこともありました。
さらには、ジョン・レノンとオノ・ヨーコの同名のアルバムからも
インスパイアされたと書いている。
アルバムを聴いて、男と女は愛し合いながらも、
見ているところが全然違うものなのだと、著者は考えたという。
アルバム「ダブル・ファンタジー」は
ジョンが射殺される直前、私が大学4年のときに発売された。
“Starting Over”などジョンの傑作と
ヨーコの怪しげな「あ~ん」という声ばかりが聴こえる曲が交互に入っていて、
当時はヨーコの曲を除いてカセットテープにダビングした、
そんな思い出がある。
さて、この本を読み終えて感じたのは、
男性なら登場人物の誰かに
自分を映すだろうなということ。
私は間違いなく、キリンと言われた岩井。
★★★★★
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