この胸に深々と突き刺さる矢を抜け (上・下)/白石一文
白石一文の「この胸に深々と突き刺さる矢を抜け」
上下巻を読んだ。
第22回山本周五郎賞受賞作品。
カワバタは有名週刊誌の編集長。
東大准教授の妻、11歳の長女と3人暮らしで、
長男は生後3カ月で亡くしている。
時折、死んだ長男の幻聴を聞くことがある。
お互いの仕事が忙しく夫婦生活はないが、
それぞれに恋人を持つ。
特にカワバタはジュンナというセックスフレンド以外に
グラビアタレント2人とも関係を持っている。
数年前に彼自身、胃がんにかかり、いまも治療中。
その再発の恐怖におびえることもある。
彼が今、追っているのが、大物政治家Nの収賄疑惑。
しかし発表直前に圧力がかかり、
社内外での駆け引きが始まる・・・
この作品、小説と呼んでいいものかどうか。
というのも、物語の途中で長大な引用文が何度も登場する。
しかも、時にストーリー展開を逸脱する。
マザーテレサの「貧しさ」と題する文、
ノーベル経済学賞受賞のフリードマンの
プレイボーイ誌でのロングインタビュー、
キング牧師のメンフィス演説、
「もし世界が100人の村だったら」の主要部分など、
著名なものも少なくない。
貧困とは、経済とは、死とは・・・
筆者の意見が主人公の独白を通じて語られる。
かなり哲学的で理屈っぽいかもしれない。
それでも、政治家Nと対峙する場面、
ラストの北海道での意外な人物など、
娯楽作品としても十分楽しめた。
著者と同じ世代、アラファーには受け入れられるだろうが、
主人公の言動やセックス描写などで、
女性からはそっぽを向かれそうな作品。
評価:★★★★☆
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