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July 26, 2009

劔岳 点の記(木村大作監督)

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木村大作監督の「劔岳 点の記」を見てきた。
監督は黒澤作品の名カメラマンで、今回が初メガホン。

明治時代、日本陸軍は国内地図最後の空白地である
劔岳を測量しようとする。
命じられたのは、参謀本部陸地測量部の柴崎芳太郎(浅野忠信)。
柴崎は現地在住でこの地域に詳しい
宇治長次郎(香川照之)を頼りに、
この前人未到の峰に挑む。
一方、日本山岳会の小鳥烏水(仲村トオル)も
この山の初登頂を狙っており、
マスコミが両者をあおり立てる。
軍は何が何でも、山岳会よりも早い登頂を
柴崎たちに命令するのだが・・・

山の映像にCGがほとんど使われていないというのは驚いた。
この素晴らしい映像が一番の見どころだろう。
しかし映画の出来となると、
それほど高い評価を与えるわけにいかない。
一人一人の登場人物を十分に描き切れてないし、
展開が早く、見ていて落ち着きのない作品となってしまった。
必要のないエピソードも少なくなかった。
問題は脚本か、あるいは編集だろうか。

また、音楽ももう少し何とかならなかったのだろうか。
ヴィヴァルディの四季の“冬”では余りにも直球、
しかも何度も繰り返し使われている。
見ていて恥ずかしさを感じてしまった。

縦書きで流れるエンドクレジットには肩書きが無い。
皆が平等にこの映画を支えたメンバーで
あるということなのだろう。
妙なところで感動した。

★★★

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July 24, 2009

秋月記/葉室麟

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葉室麟の時代小説「秋月記」を読んだ。
第22回山本周五郎賞、
第141回('09年度上半期)直木賞の各候補作品。

九州の秋月藩で起きた「織部崩れ」と呼ばれるお家騒動を中心に
事件の当事者である間小四郎や宮崎織部、
原古処、采蘋、緒方春朔などの文化人、
その他、若き武士たちの生き様を描く。
家老vs若き武士たちという構図が
読むにつれて、そんなに単純ではないことが分かってくる。

チャンバラなどアクションシーンも手に汗握ったが、
やはり一番の魅力は、陰影に富んだ人物描写。
男なら家老織部、女なら采蘋の、
行動や考え方が印象に残った。

最後に語られる言葉、
「政事はどのように行っても、
すべての者によいということはないようです。
それゆえ後の世の人に喜ばれるものを、
何か作っておきたくなる」
この言葉に表されているとおり、
政治家や公務員にぜひ読んでもらいたい作品だ。

前回の直木賞候補「いのちなりけり 」も素晴らしかった。
著者の筆力は確かで、これからも読み続けていこうと思う。。
このレヴェルの作品があと1、2作続けば、
直木賞受賞も遠くないのでは。

★★★★★

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July 23, 2009

PUFFY TOUR 2009 “Bring! it!”

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PUFFYのコンサートツアーを
近くの市民会館で聴いてきた。

開演前のアナウンスが楽しい。
「ステージには物を投げないでください。
ただし、おひねりはいただく場合がございます」
「場内はたいへん暑くなります。
“各務原キムチ”などの生ものは持ち込まないでください」
などと、ご当地ネタを交えて観客の笑いを誘っていた。

さてコンサート、
知っている曲は少なかったが、
どの曲も一度聴けば覚えてしまうような
正統派のポップス。

何よりも、ヒット曲を持っているのは強み。
後半の「アジアの純真」以降、会場内は
大いに盛り上がった。

MC中心の構成も楽しい。
やたら長くて、イメージとしては、
2、3曲歌ったら、おしゃべり10分というくらい。

たわいもないことばかりで、
普通の女の子二人の雑談。
それが自然で、微笑ましい。
歌だって決してうまいわけではない。
でもバックバンドの安定した演奏で
下手さを感じない。
有名なコンポーザーによる曲ばかりだが、
しっかりPUFFY色に染めてくるのはさすが。

休憩なしの2時間15分。
優良なJ-POPを堪能した。

以下は入手した当日のセットリスト。

●PUFFY TOUR 2009 “Bring! it!”
 '09.7.21 各務原市民会館 座席:て16

Set list
1 DOKI DOKI
2 愛のしるし
3 Bye Bye
4 All Because Of You
5 晴れ女
6 主演の女
7 あなたとわたし
8 I don't wanna
9 日和姫
10 ブギブギNo.5
11 はじまりのうた
12 メドレー(銀河系ドライブ)
13 Tokyo I'm On My Way
14 boom boom beat
15 アジアの純真
16 渚にまつわるエトセトラ
17 赤いブランコ
18 Bring it on
(アンコール)
19 日曜日よりの使者
20 誰かが
21 マイストーリー

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July 20, 2009

暴雪圏/佐々木譲

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佐々木譲の「暴雪圏」を読んだ。

舞台は帯広の郊外の町、志茂別。
出会い系で知り合った男性との関係を終わらせようと
包丁を持って出掛ける主婦、
末期ガンだと自覚し、会社の金を持ち逃げしようとする男、
暴力団組長の自宅を襲撃し金を強奪した極悪犯、
義父に犯され家出をしようとする18歳の少女。

登場人物が偶然、居合わせたのが、
町の郊外にあるレストランを兼ねたペンション。
折しも3月のお彼岸に爆弾低気圧が襲ってきた日であった。
町の交番の巡査部長、川久保は
孤立無援のまま事件に対処することになる・・・

リアリティあふれる警察小説を数多く発表している著者だが
この作品は単なる警察小説ではなく
壮大な人間ドラマ。
一気読みとよく言うが、
この本は読み始めたら止まらなくなり、
409ページを、本当に1日で読了。

主人公・川久保のラストシーンが印象的でかっこいい。
映画であれば、たぶん、
ストップモーションで終わるところだろう。

登場人物のその後は気になるが、
ここでは明らかにされない。
潔いと感じた。

★★★★★

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July 14, 2009

立川談春独演会

立川談春の独演会を愛知県犬山市で見てきた。

会場は南部公民館、
どんなところだろうと不安に思っていたら、
客席数400余り、少々老朽化はしているが
こじんまりとしたいいホールだった。

前座の立川春樹は、まだまだ慣れていないのだろう、
話が単調で眠気を催してしまった。
談春によると、ほんとに下手な落語は寝てられないそう。
ということは筋は悪くないのか。

さて、談春。
この日の演目は「宮戸川」と「不動坊」。
人物の描写は本当にうまい。
宮戸川では、半七の叔父と叔母のやり取りに
会場内は笑いの渦。

不動坊では、全然怖くない幽霊が絶品だったが、
色っぽい未亡人をもっと登場させてほしかった。

あと、不満があるとすれば、
マクラが短かったことくらいだろうか。

●立川談春独演会
’09.7.11 犬山市南部公民館 座席:え列4
[演目]
立川春樹「かぼちゃ屋」
立川談春「宮戸川」
(仲入り)
立川談春「不動坊」

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July 10, 2009

少女/湊かなえ

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湊かなえの「告白」に続く第二作「少女」を読んだ。

高校生の桜井由紀と草野敦子が主人公。
幼なじみで、小さいころは一緒に剣道教室に通っていた。
そんな二人だが、由紀の書いた小説が盗作されたことをきっかけに、
次第に離れていく。
そんなとき転入生の紫織が現れ、3人は話をするようになる。
紫織が「死を目撃した」ことを語り、人の死に関心を持つ2人は、
「人が死ぬ瞬間を見たい」と、
夏休みにそれぞれ、病院と老人福祉施設でアルバイトを始める・・・。

二人の少女が交互に語る構成は、
どちらのことなのか、読んでいても分かりづらく、頭が混乱した。
それが狙いなのかとも思ったが、そうでもなさそうだし、
この点は大きな減点。

しかし何でもないエピソードの数々が
綿密に仕掛けられた伏線となっており、
最後にすべて収束するさまは実に見事。

全体の完成度では前作「告白」に及ばない。

★★★★

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July 08, 2009

サイモン&ガーファンクル 名古屋公演

サイモン&ガーファンクルの来日公演を
ナゴヤドームで聴いてきた。
今回の日本ツアーの初日となる公演。

生まれて初めて購入した洋楽のLPが
S&Gの「グレイテスト・ヒッツ」。
中学時代にぼろぼろになるまで聴いた。
その後も10年ほどは、2人のソロアルバムを
ずっと購入し続けていた。
なのに、実はまだ一度も、
このデュオを生で聴いたことがない。
今回はラストツアーとも噂されているので
ぜひ一度、見ておきたいというのが
チケットを手に入れた理由。

正直、あまり期待していなかった。
二人の年齢や、アート・ガーファンクルの麻薬(大麻だったかな)
のことを考えると、
本当に声が出るのだろうか、
2時間歌い切れるのだろうか、
そんな不安ばかりが頭をよぎっていたのだが・・・

さて、コンサートのオープニングは、
スクリーンに流れる2人の生い立ちの映像。
そして旧友、ブックエンドのテーマとおなじみの曲が歌われた。
最初は、アートの声が聴こえない。
不安が的中かと思ったのだが、
7曲目のヘイ・スクールガールあたりから
見違えるように二人の声がハモるようになった。
あとは最後まで心配することなくコンサートを楽しめた。

印象深かったのは、
「ミセス・ロビンソン」と「明日に架ける橋」。
前者では、間奏部分でバディ・ホリーの
「ノット・フェード・アウェイ」が登場したのに驚いた。
後者は圧巻、
大げさでなく、死ぬまでに一度は
生で聴いておきたい曲だよなあ、やっぱり。

ほかにも「シューズにダイアモンド」での
バックバンドのアカペラや演奏は鳥肌が立ったし、
ポールのギター1本でハモった「木の葉は緑」には涙、涙・・・

もし名古屋公演が明日あったら、
当日券で駆けつけたと思う、たぶん。

以下にセットリストを掲載。
ただし、落ちがあるかもしれないのでご了承を。

●サイモン&ガーファンクル 名古屋公演
 '09.7.8 ナゴヤドーム 座席:アリーナBブロック10-85

Set list
1. 旧友
2. ブックエンドのテーマ
3. 冬の散歩道
4. I Am a Rock
5. America
6. キャシーの歌
7. Hey Schoolgirl
8. Be Bop a Lula
9. Scarborough Fair
10.早く家に帰りたい
11.Mrs. Robinson(途中で“Not fade away”)
12.Slip Slidin' Away
13.Bright Eyes(Art)
14.A Heart in New York(Art)
15.Perfect Moment(Art)
16.Now I Lay Me Down To Sleep(Art)
17.The Boy in the Bubble(Paul)
18.シューズにダイアモンド(Paul)
19.時の流れに(Paul)
20.ニューヨークの少年
21.コンドルは飛んでゆく
22.My Little Town
23.明日に架ける橋
(1st アンコール)
24.Sounds of Silence
25.The Boxer
(2nd アンコール)
26.木の葉は緑
27.いとしのセシリア
(バンド紹介)
28.いとしのセシリア (reprise)

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July 07, 2009

怖い絵1・2/中野京子

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中野京子の「怖い絵」「怖い絵2」を続けて読んだ。

“怖い”をテーマにした絵画エッセイ集で、
すこぶる評判がよく、
つい先日も第3巻が発行されたばかり。

西洋絵画は結構見ているつもりだったが、
専門的に学んだわけではないので、
本に紹介されている絵画で、知っていたのは
3分の1くらいだろうか。
名前さえしらない画家も数人いた。
しかしこの本を読むのに、
絵や画家を知っている、知らないは
それほど問題ではない。

最初のページで絵が紹介される。
じっくり見ても、どこが怖いの?と思う絵画もある。
ところが、時代背景や、当時の風俗、習慣などが語られるにつれ、
なるほど、怖く見えてくるのだ。
ある意味、謎解きが味わえる本ではないだろうか。

しかし中世ヨーロッパの王室の
権力争いや血縁に関するエピソードは、
どんな怪談よりも怖い。

Amazonによると、この著者の本は
「名画で読み解くハプスブルク家12の物語」「危険な世界史 」など、
どれも4つ星、5つ星と、大変評価が高い。
ぜひ読んでみようと思う。

★★★★★

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July 04, 2009

完全恋愛/牧薩次

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牧薩次の「完全恋愛」を読んだ。
2009年の“このミス”第3位、第9回本格ミステリ大賞受賞作。
ちなみに「牧薩次」は、作家・辻真先の別名義で、
キャラクターとして本作品にも登場する。

画家・柳楽糺(なぎらただす)の生涯を書いた物語。
彼は疎開先で小仏朋音に出逢い、
一生、彼女を愛し続ける。
そしてその人生の中で三度、大きな事件と関わりを持つ。

駐留軍の将校刺殺事件、
朋音の娘・火菜の遠隔殺人事件、
朋音の夫の溺死事件・・・

前述のとおり一般的な評価は高いけど、実際に読んでみて、
ミステリーとしても、恋愛小説としても、
中途半端だと思う。

どの事件のトリックも、無理をしてると感じる。
まあ、ミステリーというのはそういうものと
割り切ってしまえば、楽しめるのかもしれない。

時期は違うが、同じように昭和の時代を描いた
「オリンピックの身代金/奥田英朗」を読んだばかりなので、
その情景描写にも薄っぺらさを感じた。

ただ最後の最後、
タイトル「完全恋愛」にふさわしいオチがついている。
これは予想外、鮮やかなラストだった。
そうか、完全恋愛を成し遂げたのは、この人だったんだ・・・納得。

★★★

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July 02, 2009

ディア・ドクター(西川美和監督)

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西川美和監督の「ディア・ドクター」を公開初日に見てきた。

へき地の村で、診療所の医師・伊野(笑福亭鶴瓶)が
失踪した場面から映画が始まる。
刑事は、伊野の足取りを求めて、
看護師の大竹(余貴美子)など関係者や村人らに事情聴取をする。
そんななかで、次第に伊野の正体が明らかになってくる。
映画は回想しながら、伊野の人生を浮き彫りにしていく・・・

脚本から演出までを手掛ける西川監督。
前作の「ゆれる」同様、奥深い人間描写に感心した。
鶴瓶や余をはじめ、瑛太、香川照之、井川遥、八千草薫、
登場人物は多くないが、
それぞれに個性的で、これ以上ないというくらい
見事な演技を見せてくれた。

賛否が分かれるラストが素晴らしい(とワタシは思う)。
映画は早々にネタばれとなるので、
監督は、この作品をどのように締めくくるのかが、
一番気になっていた。
それがあのラスト。
見落としそうになるくらい、短いシーン。
「そうきたか、やられたっ」
お見事。

昨日、今年度上半期の直木賞候補作が発表された。
西川美和監督の小説「きのうの神さま」も選ばれている。
多才な人である。

★★★★★


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July 01, 2009

オリンピックの身代金/奥田英朗

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奥田英朗の「オリンピックの身代金」を読んだ。

昭和39年の東京が舞台。
アジア初のオリンピックを2カ月後に控えた8月、
その警備の最高責任者である須賀修二郎宅と警察学校の寮が
立て続けに爆破される。
やがて爆弾魔・草加次郎の名を語る犯人から脅迫状が届く。
オリンピックの中止を要求する内容であった。
警察はかん口令を敷き、爆発の事実も脅迫状も国民に伏せた。
国家の威信を掛けた東京オリンピック、
万が一のことで国際的な評価を落とすわけにはいかない。

主人公である東大の院生、島崎国男は、
兄が働いていたオリンピック会場の建設現場で
肉体労働をすることにした。
華やかなオリンピックの陰で、
多くの人が苦労を強いられていることに
次第に義憤を感じる。
オリンピック開催を阻止することに決めた国男は、
計画を練り、国や警察と対峙することになる・・・。

昭和の時代を舞台にした犯罪小説。
ノンフィクションであるにもかかわらず、
この事件、もしかしたら現実に起きていたのでは、
というリアリティを感じさせる筆力は見事。

犯人である東大院生、肉体労働の人夫、
警察庁の幹部、公安部や刑事部の警察官、
ヤクザ、そしてその他大勢の一般市民など、
さまざまな人物が登場し、
昭和という時代、戦後19年しかたっていないという時代の雰囲気、
変貌を遂げる都市・東京を見事に描いている。

2段組、500ページを超える厚みを
まったく感じさせない傑作。
これからも奥田英朗からは目が離せない。

★★★★★

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