草すべり その他の短篇/南木佳士
南木佳士の「草すべり その他の短篇」を読んだ。
20年以上前、朝日新聞で偶然見つけたエッセイ
(後に「ふいに吹く風」収録)に惹かれ、
以降、新刊を読み続けている作家のひとり。
著者がパニック症候群からうつ病をへて
たどり着いたのが、山登りという楽しみ。
「草すべり」「旧盆」「バカ尾根」「穂高山」の4つ短編には、
著者の生と死にかかわるさまざまな記憶が
登山とともに描かれている。
「草すべり」は、高校時代に憧れていた女子生徒から
突然誘われて浅間山に登る話。
男なら誰しもこんな夢を見るものだ。
誘われることはないにしても、会って顔を見てみたい、
年を重ねていくとそんな思いがつのってくる。
もちろん、実現するはずもない夢なのだが。
著者の小説には、
心にしみる言葉、文がいっぱい出てくる。
この短編集でも、何度も前に戻って読み直しながら
じっくりと味わった。
中でも、こんな一節。
「山歩きは人生の復路に入ってから始めたほうが、
より多くの五感の刺激をからだに受け入れられる気がする。
若いからだは余剰の熱を外に向けて発散するばかりだが、
老い始めると、代謝の低下したからだは
外部からのエネルギーを積極的に取り込むようになる。
鳥の声、針葉樹林の香り、濃すぎる青空、
鮮やかな緑の苔、沢の水音、木漏れ陽。」
(「旧盆」より)
私も3月で五十。これを機に山歩きを始めようと決めた。
ブログのタイトルも変更し
「るうかすの これからは山を歩くのだ」
にしようかな。
評価:★★★★★
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