歩いても歩いても(是枝裕和監督)
是枝裕和監督の「歩いても歩いても」を見た。
夏の終わりに横山良多(阿部寛)は、
妻(夏川結衣)と息子を連れて実家を訪れた。
開業医だった父(原田芳雄)と母(樹木希林)が2人で住む実家には
姉のちなみ(YOU)と夫、子どもたちが遊びに来ていた。
以降、どこにでもありそうな里帰りの風景が、
淡々と描かれる。
会話の中から、次第にいろいろなことが分かってくる。
良多と父は昔からそりが合わなかったこと、
良多が子連れの女性と再婚していること、
横山家の長男は15年前、
溺れかけていた子どもを助けようとして亡くなったこと、
そしてこの日が命日であること・・・
樹木希林の存在感がずば抜けている。
特にYOUや夏川結衣との何気ない会話は、
本音と建前が交錯して、見ている側が冷や冷やするほどだ。
その圧倒的な演技に引っ張られるように
役者全員が稀にみる好演を見せてくれた。
細部まで凝った演出にも脱帽。
例えば、風呂場の真新しい手すり、
外で無邪気に遊ぶ子どもたちが履く大人のスリッパ、
2階に片付けてあった折り畳み食卓机などには
にやりとさせられた。
全編にゴンチチの心地よいギターが流れるが、
全く無音の場面が多くを占める。
だからこそ、いしだあゆみのあの名曲が印象深い。
ラスト近く、バスの中で良多がつぶやく
「人生は、いつもちょっとだけ間にあわない」。
宇宙の法則とでもいうのか、
人生ってそういうもんなんだろうなって共感。
20年以上前、突然この世を去った父、
もう少し話をしたかった、そんなことを思いながら
ちょっぴりしんみりとなった。
役者、脚本、音楽、演出が見事にそろった、
小津の映画や、久世光彦の「向田邦子スペシャル」に匹敵する
上質の家族ドラマがここに誕生した。
評価:★★★★★
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Comments
るうかすさんの感想を読ませていただき、改めて、この映画の深さを実感しました。
懐かしい諸事があちこちにあるのも、胸きゅん。
親子、嫁姑の関係、いろいろな夫婦のありかた、男親の無口な中にある愛情、・・・ものすごいクライマックスがあるわけでないのに、見終わったとき、心がとっても温かくなりました。
今邦画で気にかかるのが、「七夜待」
岐阜では上映しないのかしら?
Posted by: もも | November 08, 2008 12:03 AM
ももさん、こんにちは。
そうこの映画は、デティールへのこだわりが
半端ではないのです。
古くなった台所にある新しい家電製品が
何だか浮いた存在なのも
田舎のおばあちゃんの家の印象を
よく表していました。
題名はいしだあゆみの
あの曲からとったものですが、
「歩いても歩いても」のあとに続く言葉、
いろいろ考えられると思うのです。
実に意味深いタイトルです。
語り尽くせない映画ですね。
「七夜待」は名古屋で上映中です。
岐阜でも予定があるみたい。
楽しみにしてます。
Posted by: るうかす | November 08, 2008 12:29 AM