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January 30, 2008

ベーコン/井上荒野

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井上荒野の「ベーコン」を読んだ。
第138回直木賞の候補作。
この作家の作品は読んだことなかったので
これを機に、手に取ってみた。

妻に子どもが生まれたばかりの不倫相手に対し、
母の得意料理をふるまう「ほうとう」。
飼い猫を探しているうちに、
つい出来心で若い男性と性行為をする「アイリッシュ・シチュー」。
家を出た亡き母が、
一緒に山奥で暮らしていた男の元を何度も訪ねる「ベーコン」。

男女の仲と、それにまつわる食べ物の短編が
9編収められている。
たしかに食べ物の印象、例えば味やニオイ、食感、
あるいは誰と一緒だったとか、その場の雰囲気とかは、
記憶に残っているものだ。
それが異性にかかわるものであれば、なおさらのこと。
どの作品も、食べ物の表現と男女の微妙な心の揺らぎが
生々しく描かれている。
短編はあまり好きではないが、
これは久しぶりに気に入った。

評価:★★★★☆

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January 27, 2008

名フィル第343回定期演奏会

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名フィルの第343回定期演奏会を聴いてきた。

今回はフランス、オルガンに関連する
3人の作曲家の作品が取り上げられた。
滅多に聴けない曲ばかりで、
このプログラムだけでも価値があるというものだ。

幕開けの尾高惇忠「肖像」は、
打楽器が活躍するカッコいい曲。
冒頭の不安げなトランペットは、一瞬ひやりとしたが、
こういう曲なんだろうねえ。
中盤からは木管、金管とも安定した演奏を聴かせた。
指揮の忠明氏の実兄である作曲家本人が会場に来ており、
演奏後、拍手を受けていた。

プーランクの協奏曲は、名フィルの弦楽の後ろに
ティンパニーがデンと座り、
そのまた後方上段に会場備え付けのオルガンという配置。
オルガンを弾く鈴木雅明は初めて聴く。
いい表現ではないかもしれないが、
攻撃的でスリリングな演奏、
わくわくしながら聴いていた。

後半の「レクイエム」。
これは誰よりも、合唱の岡崎混声合唱団と岡崎高等学校コーラス部に
拍手を送りたい。
特に高校はコンクールの常連でうまいとは聞いていたが
これほどまでに力強く美しいとは。
一度、定期にも足を運んでみたいなと思った。

合唱とオケとオルガンの奏でる圧倒的なフォルテシモに、
そして曲が終わり、指揮者の腕が下りるまでの至福の静寂に、
ただただ、心が震えた。

●名古屋フィルハーモニー交響楽団 第343回定期演奏会
 「フレンチ・オルガン・コネクション」
 '08.1.18 愛知県芸術劇場コンサートホール

指揮:尾高忠明
演奏:名古屋フィルハーモニー交響楽団
オルガン:鈴木雅明
メゾソプラノ:寺谷千枝子
テノール:三原剛
合唱:岡崎混声合唱団、愛知県立岡崎高等学校コーラス部

尾高惇忠:オーケストラのための「肖像」
プーランク:オルガン、弦楽とティンパニのための協奏曲ト短調
(休憩)
デュリュフレ:レクイエム 作品9

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January 26, 2008

雑誌“Gauguin”(ゴーギャン)の付録

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書店で雑誌を立ち読みしていたら、
紐で縛ってある男性誌を見つけた。
間に挟まっていたのは映画のDVD、
表紙には「特別付録カサブランカDVD」とある。

今月号の特集「青春の映画ベスト100」で1位に輝いたカサブランカの
DVDを付録にしてしまおうという、なかなか大胆な企画。
普段の税込み価格は680円に対し
今月は特別価格で880円、格安だと思う。
で、1冊購入。
40ページにわたるカラーグラビア特集、
「ルーヴル美術館を愉しむ。」も読み応えあり。

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January 24, 2008

約束の地で/馳星周

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馳星周の「約束の地で」を読んだ。
第138回直木賞の候補作。

会社を共同経営していた友人にだまされ、
一文無しになった誠は、
自殺しようと生まれ故郷に戻ってきた。
ところが飲み屋で古い知人から、
一人暮らしの父親に多額の貯金があることを聞き、
その金を当てにしようと考える。
母と妹が事故死してからは、父親と没交渉の状態。
今さら金を無心することができなかったため、
留守を狙って山小屋に足を踏み入れる・・・
(第一話「ちりちりと」)

北海道の寒い時期を舞台にした5つの短編集。
どれも救いようのない男と女の物語で、
幸せなエンディングを迎えることはない。
しかしそれほど不快感が残らないのは、
著者の筆力なのだろうか。
この著者は初めてだったが、
ぜひ他の作品を読んでみたいと思った。

それぞれ独立した物語なのだが、
脇役のひとりが次の作品の主人公として登場し、
最後の作品に最初の主人公が脇役として登場する。
5つの作品が環のようにつながり、
短編集全体で一つの世界を作り上げている。
この構成も気に入った。

評価が4なのは、
第三話「世界の終わり」で、
少年がナイフで警官二人を刺し殺すシーンが
どうしても理解できないから。
殺してなかったら5つ星。

評価:★★★★

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January 22, 2008

ひとり日和/青山七恵

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青山七恵の「ひとり日和」を読んだ。
第136回芥川賞を受賞した作品。

20歳の知寿はフリーター、
母親が仕事の都合で単身中国へ渡ることになり、
遠縁で71歳の吟子さんの家に転がり込む。
50歳の年齢差がある2人の女性、
その共同生活やそれぞれの恋愛を淡々と描いている。

自立した生活が始まろうとしたとき、
知寿は会社の既婚者の男に誘われ、
心弾ませながらデートに向かう。
行き先は競馬場。
新たな恋は、幸せな結末を迎えるとは到底思えない、
暗示的なラストシーンが不思議な余韻を残す。

評価:★★★★☆

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January 20, 2008

女神のための円舞曲/大石英司

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大石英司の「女神のための円舞曲」を読んだ。

身神音々(みかみ・おとね)は、
尾道市の中学校教員で、ブラスバンド部の顧問。
25年前に亡くなった母が死ぬ直前に、
将来コンサートを開催するため
文化ホールを予約していたことを知る。
しかも音々の名義で。
疑問を持ちながらも、
コンサートを実現させるため奔走する・・・

主人公の音々を軸にして、
筋ジストロフィーで闘病生活を送る青年の家族捜しや、
殺人事件の捜査などが複雑に絡む、
ミステリー仕立ての作品となっている。
ラストのコンサートに向け、次第に事情が明らかになるのは、
濃い霧が次第に晴れていくような爽快さがある。
しかしご都合主義の部分も多く、ワタシは楽しめなかった。

2度訪れたことのある、旧瀬戸田町の風景描写の場面では
しばらく感傷に耽ることができたのだけれども・・・

評価:★★

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January 19, 2008

カピバラのやまちゃん、第二弾

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今日も見てきた、カピバラのやまちゃん。
昨日はほとんど座ったままだったが、
今日は元気に歩いていた。
頭をなでると、キューキューとかわいい鳴き声。
本当に大人しくて、ペットとして飼いたくなってきた。
草食だが体がでかいので、
餌代は大人の食事代より高くなるというのであきらめた。
秋篠宮殿下も飼っているといううわさ。
さすが、いい趣味していらっしゃる、殿下。

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January 18, 2008

カピバラのやまちゃん

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近くの水族館でカピバラのやまちゃんを見てきた。
今月いっぱい、特別展示されている。

いやぁ驚いた、こんなに大きいとは。
ねずみじゃなかったっけ、こいつ。
犬なんかよりずっとでかい。
けれども何だかぼうっとしていて、
これって癒し系。
大好きです、やまちゃん。

どうして水族館で展示されているのか、
広報担当の方に聞いたら、
ねずみ年ですから、
って、全然理由になってないよね。
まあかわいいから許そう。
また明日も見に行く予定。

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January 17, 2008

八日目の蝉/角田光代

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角田光代の「八日目の蝉」を読んだ。
'07年度「中央公論文芸賞」受賞作。

OLの野々宮希和子は、
ある朝、不倫相手の家に忍び込み、
6カ月の赤ちゃんを連れて逃亡する。
友人宅などを渡り歩いた後、
新興宗教まがいの「エンジェルホーム」にたどり着く。
ここで他の女性たちと共同生活を続けたが
マスコミに騒がれ始めると逃げ出し、
瀬戸内の小豆島で新しい生活を始める・・・

1章では、希和子が薫と名付けた赤ちゃんを連れて逃げ、
小豆島で暮らすまでを、希和子の視点で描く。
2章では、その17年後、
大人になった薫(恵理菜)の視点で、
事件の経過を順にたどっていく。

誘拐という許されない罪を犯した希和子なのだが、
薫への無償の愛は何とも切なく、
共感さえも覚えてくる。
しかし2章で、犯罪の詳細が明らかになり、
一番の被害者である恵理菜の苦悩する姿を見るにつけ、
やはり重罪であったことを再認識させられる。

クライマックスは終盤に訪れる。
希和子が港で叫んだ言葉、

「その子は朝ごはんを食べていないの」

このあたりから涙腺がゆるんできて、
鮮やかなラストでは、文字がかすんで見えなくなった。
心を揺さぶられる傑作。

評価:★★★★★

本の評価で5つ星を付けるのは
年に片手程度、つまり5作品と、基準を決めている。
しかし今年に入ってから5つ星が続き、
この作品で4冊目となってしまった。
ちょっと甘いなとは思うけど、
いい本との出会いに感謝しよう。

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January 14, 2008

プロコフィエフのピアノ協奏曲

昨年一番ショックだったのは、
大学の後輩Iくんの交通事故死。
6月にOB会で25年ぶりに再会、
お互い変わらないなと、飲みながら旧交を深めた。
ところが11月、別の後輩から、
Iくんが交通事故で亡くなったとの連絡が入った。
横浜ベイブリッジ上での追突事故で、
即死状態だったらしい。

以来ずっと気になっていることがある。
再会したときに彼が熱く語った、
プロコフィエフのピアノ協奏曲のこと。
彼が勧めてくれた全集(5曲)CDの演奏者名を
料亭の箸袋にメモり、持ち帰ったつもりなのだが、見当たらない。
あれから2カ月たったのに
喉に刺さった魚の骨のように、
気になって落ち着かない。

一人住まいだった彼の遺品は弟さん宅にあるらしい。
CDはもう処分されてしまったのだろうか。
密葬だったため葬儀には参列していない。
今年はぜひ線香をあげに行きたい。
そして、もし残っていれば、CDを見せてもらおうと思っている。

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January 12, 2008

映画篇/金城一紀

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金城一紀の「映画篇」を読んだ。

「太陽がいっぱい」など5本の映画をテーマに、
友情や愛を描いた短編集。
映画を通じた親友・龍一との友情を描く「太陽がいっぱい」。
連れ合いが自殺し、引きこもってしまった主婦が
レンタルビデオショップの店員の若者から
力を得る「ドラゴン怒りの鉄拳」。
学校生活に飽きた高校生カップルが強盗を企てる
「恋のためらい/フランキーとジョニーもしくはトゥルー・ロマンス」。
両親が離婚協議中の少年が、いじめッ子に囲まれたとき
突如として現れ彼を助けた
謎のおばさんライダーを描く「ペイルライダー」。
夫を亡くしてへこんでいたおばあちゃんを、
元気づけるために映画上映を計画する孫たちを描いた「愛の泉」。

5作品はゆるやかにつながっている。
レンタルビデオ店や、
金持ちの主婦がアラブ人の若者と恋に落ちる謎のフランス映画、
製薬会社の薬害事件、
そして全篇に登場するのが「ローマの休日」上映会。
ここでは、登場人物が一堂に会し、
さながらロバートアルトマン監督の群衆劇といった雰囲気。
映画好きにはたまらない。
本の前扉にある「ローマの休日」の
手作りポスターもイカしてる。

ところで前述した“謎のフランス映画”、
これは実在するんだろうか。
全く見当がつかないだけに気になってしまう。

評価;★★★★★

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January 07, 2008

ゴールデンスランバー/伊坂幸太郎

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伊坂幸太郎の「ゴールデンスランバー」を読んだ。

街中に監視システムが設置され、
市民の行動が管理されている近未来の仙台が舞台。
地元出身の金田首相が、パレードの最中に爆殺された。
容疑者としてでっちあげられたのが主人公の青柳雅春。
昔の恋人や友人、あるいは新たに知り合った
一風変わった人たちに助けられながら、
訳も分からないうちに逃亡するのだが・・・

いつものことながら展開がうまい。
第一部、第二部では、マスコミを通した事実が
読者に知らされる。
第三部で「事件から二十年後」が語られ、
第四部からは、青柳雅春と樋口晴子の交互の語りで
物語の真実が次第に明らかになっていく。

数多くの人物が登場して、さながら群像劇、
そんな中でも気に入ったのは青柳雅春のお父さん、
子どもらしくない樋口晴子の長女、七美、
全然怖くない通り魔の三浦、
とぼけた花火屋の轟社長など、
個性豊かな登場人物が散りばめられ、
読者を楽しませてくれる。
ラスト近く、父に届いた手紙「痴漢は死ね」、
参った、本当にうまいなあと思う。

音楽の扱いも巧みな著者、
今回のタイトル「ゴールデンスランバー」はザ・ビートルズの名曲で、
アルバム「アビイロード」B面を飾るメドレーの1曲目。
歌詞が作品のテーマにもなり幾度となく挿入される。

この作品、第138回直木賞の候補は確実だろうと思っていたが、
昨日の発表で、残念ながら選ばれていなかった。
またもや賞に嫌われたらしい。

評価:★★★★★

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January 04, 2008

ドラマSP「のだめカンタービレ in ヨーロッパ 第一夜」

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いやぁ、良かった、のだめ第一夜。
滅多にテレビドラマは見ないが、一昨年の“のだめ”は別。
毎週楽しみにしていて、放映の3カ月はあっという間だった。
今回はその続編で、2夜に分けてのスペシャル。
テーマとなっている
ベートヴェンの交響曲第7番と、ラプソディ・イン・ブルー以外にも
クラシックの名曲がてんこ盛り、
どこでどう使われるかも見ものだった。
千秋のコンクール本選での、
R.シュトラウス「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯」から
チャイコフスキー「ヴァイオリン協奏曲」、
そして結果発表の場面で使われた
エルガー「エニグマ変奏曲」から「ニムロッド」、
これには泣けた。

明日は第二夜。
のだめとミルヒーがもっと活躍しそう。

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January 02, 2008

ダイイング・アイ/東野圭吾

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東野圭吾の最新作「ダイイング・アイ」を読んだ。
後で知ったのだが、10年前に「小説宝石」で連載されていた作品が
やっと書籍化されたものらしい。

何者かに襲われて記憶の一部を失った主人公の雨村慎介は、
過去に自分が車で死亡事故を起こしていたことを知らされる。
その暴漢はすぐに自殺するが、
交通事故で死なせてしまった女性の夫であった。
どうして自分は事故を起こすことになったのか、
腑に落ちない彼は事故のことを調べ始める。
なぜか、その事故に触れたがらない周りの人たち。
そして、彼の前に現れるようになった謎の女、瑠璃子・・・

サイコホラーというか、コラーミステリーというか、
著者には珍しいジャンルの作品。
事故死の生々しい描写にはぞくっと来た。
しかし、テンポの良さはいつもどおり、
トリックもちょっと強引ではあるけれど
謎解きの楽しみを十分に味わえた。

生々しい性描写は
「宝石小説」ならではの読者へのサービスだろうか。

評価:★★★★

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January 01, 2008

サクリファイス/近藤史恵

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あけましておめでとうございます。
今年も拙いブログにおつきあいをよろしくお願いします。

年末に、近藤史恵の「サクリファイス」を読んだ。
「キノベス2007」の第1位、
「このミス」などでも高い評価を得ている。

主人公の白石誓は、自転車ロードレースのプロチームに在籍。
チーム内での役割は、エース石尾豪のアシスト、
自分のためではなくエースを勝たせるために働くことを
要求されるポジションである。
才能はあるが、性格から自分がエースになろうとはせず、
アシストであることに不満を持たずにいる白石。
しかしその走りが次第に認められ、
エース候補にも名前が挙がるようになった。
そして、スペインのプロチームが、
日本人のアシストをスカウトするという話が聞こえてきた。
そんな中、レース中に大事故が発生する・・・

読み始めは青春小説、最近流行のスポーツ物のような印象だが、
事故が起きてからは、がぜんミステリー色が強くなってくる。
二転三転する仕掛けが見事で、
悲惨な事故を扱っているのに、
さわやかな結末となっている。
作品の切れ味はもちろん高い評価が付けられるが、
自転車ロードレースという未知のスポーツに
興味を持たせてくれたことにも感謝したい。

評価:★★★★★

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