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December 31, 2007

川の光/松浦寿輝

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松浦寿輝の「川の光」を読んだ。

川辺の土手に穴を掘って生活するクマネズミ親子の
勇気あふれる物語。
町のなかを貫いて流れる川が暗渠化される工事が始まり、
親子は、上流を目指して移動することになった。
ところが地上ではイタチやネコ、そして大きなドブネズミ、
空からはカラスやノスリなどが親子を狙う。
窮地に立ったときに助けてくれたのは、
ゴールデンリトリバーの心優しい飼犬や古い洋館に老婆と住む猫、
スズメの親子など。
波瀾万丈のうちに物語は進む。

まるで児童書のような内容で最初は戸惑ったが、
次第に物語の中に引き込まれていった。
単なる冒険活劇ではなく、
家族、友情、環境などについて再認識させてくれる。

「別の誰かの命を救うことで、借りを返す。
そうやって貸しと借りが順ぐりに回って、この世は動いてゆく。」

「生きるという事は、たとえば走る事だ。
真夜中だった。
ところどころに、灯る水銀灯に照らされた闇の中を、三匹は走っていた。
走るというのは、ただ脚を動かすというだけのことではない。
体に、顔に、風を浴びることだ。
足の裏で地面を踏みしめ、地面を蹴って、前へ前へと進んでいくことだ。
木のにおい、草のにおいを嗅ぎ、それがどんどん別の匂いに移ろっていくのを
全身で感じとることだ。」

人生訓もうまく取り込まれていて、
いろいろと考えさせられる作品だった。

著者は詩人でありフランス文学者(東大教授)、
さらには「花腐し」で芥川賞受賞という作家の顔も持つ。
今度は児童文学、なんと多芸な人だろう。

評価:★★★★☆

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