川の光/松浦寿輝
川辺の土手に穴を掘って生活するクマネズミ親子の
勇気あふれる物語。
町のなかを貫いて流れる川が暗渠化される工事が始まり、
親子は、上流を目指して移動することになった。
ところが地上ではイタチやネコ、そして大きなドブネズミ、
空からはカラスやノスリなどが親子を狙う。
窮地に立ったときに助けてくれたのは、
ゴールデンリトリバーの心優しい飼犬や古い洋館に老婆と住む猫、
スズメの親子など。
波瀾万丈のうちに物語は進む。
まるで児童書のような内容で最初は戸惑ったが、
次第に物語の中に引き込まれていった。
単なる冒険活劇ではなく、
家族、友情、環境などについて再認識させてくれる。
「別の誰かの命を救うことで、借りを返す。
そうやって貸しと借りが順ぐりに回って、この世は動いてゆく。」
「生きるという事は、たとえば走る事だ。
真夜中だった。
ところどころに、灯る水銀灯に照らされた闇の中を、三匹は走っていた。
走るというのは、ただ脚を動かすというだけのことではない。
体に、顔に、風を浴びることだ。
足の裏で地面を踏みしめ、地面を蹴って、前へ前へと進んでいくことだ。
木のにおい、草のにおいを嗅ぎ、それがどんどん別の匂いに移ろっていくのを
全身で感じとることだ。」
人生訓もうまく取り込まれていて、
いろいろと考えさせられる作品だった。
著者は詩人でありフランス文学者(東大教授)、
さらには「花腐し」で芥川賞受賞という作家の顔も持つ。
今度は児童文学、なんと多芸な人だろう。
評価:★★★★☆
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