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September 05, 2007

悪人/吉田修一

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吉田修一の 「悪人」 を読んだ。

福岡県と佐賀県の県境にある三瀬(みつせ)峠で、
石橋佳乃という若い女性が殺された。
犯人は長崎市郊外に住む土木作業員の清水祐一。
出会い系サイトで知り合い、殺害に至ったこの事件は、
感情の行き違いから生じた偶発的なものであった。

警察に追われるようになった祐一は、
これまた出会い系で知り合い付き合い出したばかりの
紳士服の量販店で働く馬込光代と逃避行を始める。
逃げ切れなくなり、車を捨てた2人は山中に隠れたのだが、
最後には祐一が逮捕されることになる・・・

ストーリーとしては単純だが、
これに大学生の二人や、被害者佳乃の職場の友達、
祐一の家族などが複雑に絡み合い、
リアリティのある群像劇となっている。

さてタイトルであるが、
この小説に特別の「悪人」は出て来ない。
どこにでもいそうな人物ばかりだ。
特に後半、逃避行する祐一と光代は、
こんな事件に巻き込まれなければ、
平々凡々な生活を送っていたのではないかと思う。
悪人とまでは言わないが、
「悪いやつ」がいるとすれば、被害者の佳乃や、
当初加害者と思われたノー天気な大学生の方が
それに近いのではないか。
ふとしたことから、だれもが悪人になりうる、
小説を読みながら、そんな危うさを感じた。

もうひとつ「愛」について。
逃避行を続ける二人、
出会う前は、将来への希望もなければ現在の充実感もない
さみしい毎日を送っていた。
そんな日常よりも、たとえ殺人を犯した後の逃避行であっても、
毎日が光り輝いていた。

警察に保護された光代が、交番から逃げ出し、
祐一の待っている山頂の灯台まで
いばらをかき分けながら必死になって戻ろうとする場面には
涙する読者も少なくないはず。
ところがこの二人の愛は、
逃亡という非日常的な状況だからこそ
成立したものではなかったろうか。
日常生活の中だけでは、
ここまで愛する心は育ち得なかったのでは。

つい饒舌になってしまった。
感想をうまくまとめ切れなかったが、
ちょっとやそっとじゃ語り尽くせない話題の本、
とにかくお薦めの1冊だ。

というわけで、★★★★★

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Comments

TBさせていただきました

著者が並々ならぬ覚悟でこの作品に取り組み、できる限りの力を注いだという熱意が伝わってくるような本でした。

Posted by: タウム | November 17, 2007 03:01 AM

タウムさん

確かに著者、入魂の1冊でしたね。
今後どんな作品を発表するのかも楽しみです。

Posted by: るうかす | November 20, 2007 11:47 PM

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