雪沼とその周辺/堀江敏幸(新潮社)
山あいの小さな町、雪沼に住む人たちを描いた短編集。
それぞれの登場人物やエピソードが、
ゆるやかにつながり合って連作を形成している。
ボウリング場、家具調ステレオ、レコード、手作り凧、
まさに私の幼少年時代の思い出そのもの。
堀江敏幸は、岐阜県多治見市出身の芥川賞作家。
年齢は40歳、私よりずいぶん若いのに、
執拗なくらい細かで正確な描写はどうしてだろうか。
小さな町を舞台にした、普通の人々のありふれた暮らしは、
けっして豊かではないどころか、
一般的に見ると不幸な境遇にあるといってもいい。
なのに悲壮感を感じない。
生活ぶりは私たちよりずっと豊かに思えてくる。
この架空の町、雪沼の環境がそうさせているのでは。
この地で、彼らのような人生、まさに「スローライフ」を送ってみたい、
そう思う都会人は少なくないだろう。
7作品はどれもいいが、
特に「スタンス・ドット」は、一生私の心の中に残る至福の1編。
これを原作に短編映画ができたらと思う。
白い部分を効果的に使った装幀も
お見事というほかない。
感銘度は5つ星で☆☆☆☆
« あけおめ2005 | Main | 工事看板 »
The comments to this entry are closed.
Comments